ごみすてば
ごみすてば
ゴミ捨て場にトルソーが捨ててあった。
トルソーはトルソーだ。
服屋でよく見ませんか?
言ってしまえば、胴体部だけのマネキンのような物だ。
服を飾るための物だ。
全身あり四肢がついてあるものをマネキン。
四肢のないものをトルソー。
まあ、そんなようなものがゴミ捨て場に捨ててあったのだ。
胴体部だけなので、マネキンほどの不気味さはない。
逆に服をちょっと飾るのに良さそうで、こういったものが部屋にあってもいいかも。
と、それをゴミ捨て場でそれを見た女は思った。
それを持ち帰ろうとはしない。
ゴミ捨て場の物を漁るほど、女は卑しくはない。
その日はそれだけだった。
次の日、ゴミ捨て場にはそのトルソーだけが残されていた。
女は思う。
昨日は粗大ごみの日じゃなかったからかと。
トルソーには、粗大ゴミ云々と書かれた張り紙も張られている。
粗大ごみの収集日は隔週の木曜日だ。
このトルソーが回収されるまで、まだしばらくこのトルソーを、胴体部だけの物体を見続けることになると女は思っていた。
けれども、マネキンのように四肢が付いているわけではない。
それが動き出しそうとか、そう言った妄想も出てこない。
夜、仕事帰りにマネキンをゴミ捨て場で見たら驚くだろうが、このトルソーを見たところで驚きはしない。
女はそんなことを考えていた。
また次の日だ。
女はゴミ捨て場のトルソーを見て驚いた。
なんと顔がトルソーに乗せられていたのだ。
もちろん本物の顔ではない。
恐らくだけど、美容院などで散髪の練習で使われる頭部だけの人形が、トルソーの首の部分に取り付けられていたのだ。
顔が着くだけで、だいぶ不気味さが増す。
女はそんなことを考えたし、悪趣味なことをする人もいた物だと、早くこのトルソーと頭部だけの人形を回収してくれないか、そんなことを考え始めた。
その日の帰りだ。
なんと、トルソーに足が生えていた。
実際には厚手のタイツをトルソーの腰部分に履かせただけなのだが。
それを見た女は悲鳴を上げそうになる。
夜に見るツギハギで作られたようなこの人形の風で揺れるタイツはとても不気味なものがあったからだ。
女は、本当に一体誰がこんな悪戯を。
と、そう考えるが、明日には腕が生えるかどうか、少し気になってしまいもする。
で、次の日だ。
流石に夜にタイツを履かされていたせいか、朝には何も変化はなかった。
恐らくは子供の悪戯だろうし、そんな物だろうと。
なら、夜に、仕事帰りになら、腕が生えているかもしれない。
女はそんなことを考える。
実際に、その日の夜だ。
その、もうトルソーとは言って良いのかわからないが、その人形には腕が生えていた。
女の予想通りだ。
だが、妙にリアルな腕だ。
トルソーの胴体に、頭部だけの散髪用の人形、タイツだけの下半身。
それとまるで本物のような腕。
それがゴミ捨て場に捨ててある。
継ぎ接ぎだらけの化物のような、形容しがたいそれが捨ててある。
さすがに不気味だ。
四肢と頭部が揃ったから?
いや、それもあるだろうが、まったく異なった頭部と四肢が不気味さをより際立たせているのだ。
女はその不気味な人形の近くを通る。
手だけが、腕だけが、妙にリアルで今にも動き出しそうに思えた。
だが、動くわけがない。
これはただの人形の寄せ集めだ。
足などただの中身がないタイツでしかない。
女がその不気味な継ぎ接ぎの人形の前を通り過ぎた後だ。
女は何者かに肩を掴まれる。
ヒッ、と声を上げて女は振り返る。
確かに肩を掴まれたはずだが、そこには継ぎ接ぎだらけの人形しかなかった。
女は慌ててその場を走り去った。
次の日、その人形は粗大ゴミの回収で無事回収されていった。
もし、あの不気味な継ぎ接ぎ人形が回収されなかったら。
次は何が追加されていたのか。
女はそれを考えながら今日も仕事に向かう。
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