ぬけがら

ぬけがら

 家の前のフェンスに、夏になると蝉の抜け殻がいっぱいある場所がある。

 少年はそれを毎年楽しみにしていた。


 少年は蝉の抜け殻を収穫してそれを箱に入れて保存する。

 大量に保存する。

 その箱をうっかり開けた母親を泣かすこともあったほどだ。


 今年も抜け殻の時期だ。

 少年はそう思って、フェンスの前にやってくる。

 土の地面には小さな穴がいくつも空き、フェンスには蝉の抜け殻が既にいくつもある。

 少年はそれを見つけ次第収穫していく。


 その中に一つ。

 大きなカブトムシと思うほどの大きな蝉の抜け殻があった。

 セミの抜け殻と言えば、大体指とそう変わらない程度の大きさだが、それはどちらかと言えばこぶし大程の大きさだったのだ。


 少年はそれを喜んで取る。

 きっとこれは蝉の王様の抜け殻なんだ、少年はそう考えた。

 友達に自慢しよう、父親にも自慢しよう、母親は嫌がるから内緒にしよう。

 そうして、その大きな抜け殻を丁寧にしまい込んだ。


 その夜のことだ。

 妙に大きい鳴き声が聞こえる。とても大きな鳴き声だ。

 シャーシャーと大きな蝉の鳴き声が聞こえる。

 少年はもしかしたら蝉の王様、あの大きな抜け殻の主かもしれない。

 そう思い少年は暗い窓の外を、窓を開けてに見る。


 蝉の大きな鳴き声は聞こえるが、それらしいものは見えない。

 そもそも暗くて見えない。


 少年が懐中電灯でも、とそう思って振り返った時だ。

 多きは羽音と鳴き音と共に少年の後頭部に何かが止まった。

 とても大きな、それは少年の後頭部でシャーシャーと大音量で鳴きだした。

 更にその、少年からは見えないが、恐らくは大きな蝉、その脚は強く少年の後頭部を掴む。

 そして、大きな鳴き声でシャーシャー、シャーシャーと鳴くのだ。


 少年も怖くなり、泣きながら、ごめんなさいと、繰り返した。

 それでも、鳴き声はシャーシャー、シャーシャーと大きな音で続く。


 少年が目覚めると朝になっており、自分のベッドで寝ていた。

 流石にもう蝉の鳴き声は聞こえない。

 それからというもの、蝉の抜け殻は集めるのをやめたが、少年は蝉がより一層好きになった。

 なぜなら、蝉こそのが最強の昆虫と少年の中ではなったのだから。




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