ぬけげ
ぬけげ
部屋に抜け毛が落ちている。
そんな珍しい話ではない。
人間、生活していれば、どんなに掃除をしていても抜け毛くらい落ちている物だ。
この部屋に住む男もそう思う。
だが、明らかに自分の抜け毛ではない。
男の髪は短髪だ。
けれど、床に落ちている髪は長い。
一メートルくらいはあるんじゃないか、実際にはそこまで長くないのだけれども、実際にはその半分くらいの長さなのだけれども。
男にはそれくらい長く思えるほど長い髪の毛が部屋に落ちている。
ついでに男は一人暮らしだ。
かわいそうだが恋人もいない。
何なら部屋に遊びに来るような女友達もいない。
最初は自分の母親がこっそりと掃除でもしに来ているのか、そう考えた。
だが、よく思い出すまでもなく、男の母親の髪もここまで長くない。
それに誰かがいる気配は、部屋を掃除された様子もなにもないのだ。
男はもしかしたら自分にストーカーが?
と思ったが、鏡を見てそれはないと思いなおす。
もしそんなストーカーが居たら、喜んで相手する、とまで男は思っている。
男はそこで、仕事に出かける前にメモを書いてテーブルの上に置いておいた。
メモには、髪の毛の主へ、こそこそしないで一度会ってみませんか? と。
そのメモを残した日、男が自分の部屋に帰る。
見なれた自分の部屋なのに、異様な気配がそこにはあった。
部屋の空気が異様に冷たく、それでいてじめじめとして湿気も感じる。
それに何か生臭い。
誰かがいる。
男は部屋に帰った瞬間そう確信した。
男は念のため、部屋のドアにカギを掛けずに部屋に入る。
おっかなびっくりしながら、部屋を見て回る。
それほど大きな部屋じゃない。
すぐに部屋の中を見て回り終える。
誰もいない。
風呂もトイレも、クローゼットの中もベッドの下も。
人が隠れられそうなところは全部見て回ったが誰もいない。
誰かがいた、それだけは男はなんとなく確信を持っていた。
けど今は居ない。
男はなんだかんだで胸を撫でおろし、息を吐き出す。
そして、ドアのカギを閉めて、一息つく。
そして、思い出したかのようにテーブルのメモを見る。
そこには一言書き加えられている。
いやよ、と。
男はそのメモを見た瞬間、背筋にゾクゾクとした寒気を感じた。
そして、部屋がより一層寒く、ジメジメとしだしたのも感じ取れた。
それ以降も男の部屋には抜け毛が落ちている。
長く黒い髪の毛が。
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