におい

におい

 女はマンションの一室に住んでいた。

 この頃、部屋の中がどうも生臭い。

 凄く嫌な生臭さだ。


 いくら掃除しても生臭い。

 どこから臭って来るかもわからない。


 排水口から臭っている気もするがどれだけでもない。

 部屋全体から臭っている気がするのだ。


 マンションの管理人に電話をしてみたが、あまり話をしてもらえずに生ごみをしっかりと捨てて、と言われただけだった。


 女が生臭い臭いに悩みながら、日々を過ごしていると、トイレに小さな虫がいることを確認する。

 なにかの幼虫のように女には見えた。


 虫が湧くような物はないはずなのに、女はそれをトイレットペーパーで包んでトイレに捨てた。


 だが、その日を境にトイレに幼虫が湧くようになる。

 だいたい一匹、日によっては二~四匹と。

 

 流石に、と女がと思っていると、まだ流していなトレイの水底に幼虫が蠢いているのを発見する。

 それで女も気づく。

 これは蛆虫だと。


 排水管を伝って入って来ているのだと。


 女がどうしようかと、思いトイレの水底を見ていると、トイレの排水口のほうから、汚くくすんだ深い緑の泡がボコッと音を立てて上がってくる。

 そして、その泡が弾ける。


 物凄い生臭さが辺りに立ち込める。


 これが臭いの原因だと、女は理解する。

 下水管を伝って臭いや蛆虫が上がって来ているのだと、やっと理解できた。

 女はすぐにマンションの管理人に電話をし、文句を言う。

 この頃には、他の部屋からも苦情が相次いでいたので、管理人も話を聞かざる得なかった。


 それから一週間くらしてだろうか。

 臭いの原因が特定される。


 女のすぐ上に独りで住んでいた老人がトレイに座ったまま死に、腐乱していたのだろいう。

 腐乱した老人の死体は、そのままトイレに、しかも大部分の内臓が流れ落ちて……


 女はすぐに引っ越した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る