けんけん
けんけん
男は焦っていた。
夜遅く、帰り道、人通りの少ない道。
自分をつけて来る者がいる。
しかも、けんけんでだ。
そう、けんけんぱのけんけんだ。
片足で跳ねながら、それは男の後をついてきている。
いつ頃からかはわからない。
最寄りの駅について駅を出た時は、もちろんそんなものにつけられてはいない。
公園を通り過ぎたあたりから、けんけんをする何者かに男はつけられている。
男ははじめ、怪我をした子供かと思っていた。
こんな夜遅くに大変だ、と思っていたがどうも様子がおかしい。
男が止まるとそれも止まる。
男が振り返るが、それは暗がりにいてシルエットしかわからない。
片足で立ち、こちらをじっと見ているかのようにたたずんでいる。
ただ近づくのも何か怖いと思った男は途中でコンビニに寄る。
そこでしばらく時間を潰す。
コンビニを出ると周りに人影はない。
男は、ホッとし再び家に向かって歩き始める。
そして、人通りがない道に入ると、気づくとそれは後ろのほうから、けんけんをして男をつけているのだ。
男にはつけて来る者が、とてもじゃないが人間には思えなかった。
だから、このまま家に帰っていいかどうか迷っていた。
家にまで連れて帰ってしまったら、家族にまで迷惑がかかる、そう思ったのだ。
男は走り出した。
遠回りをして複雑な道を走り抜ける。
そして、駅に戻る。
そこそこ大きな駅だ。
夜遅くだが、タクシーくらいまだ残っている。
男はそう考えたのだが、駅にはもうタクシーは残ってなかった。
平日の中日だし仕方のないことだ。
一応バスの時刻表を見るが、もちろんバスなどが走っている時間帯ではない。
男が駅で途方に暮れている。
この駅は階段を登って駅のホームに行くタイプの駅だ。
そして、男は今ちょうど駅の階段を登ったところにいる。
男がふと階段の下を見ると、黒い小さな、子供のような人影が、階段の下に見ることができる。
相変わらず人影、シルエットしかわからない。
光源的に影にはならないはずなのだが、それは影にしか見えない。
元から影かかかったかのように黒いのだ。
なぜか、下手な切り抜き写真を思い起こすような、そんな人影だった。
そして、シルエットのような姿でも脚が一本しかないのも分かる。
それがけんけんで階段を登ろうとしている。
ただし、駅はまだ明るい。
煌々と電気がついている。
正体がわかるかもしれない、と思うの同時に、正体を知るのが怖いと男には思えてしまう。
それに、あの影のかかったような姿のまま、電気のついている下を歩かれでもしたら、正気を保っていられる気がしなかった。
男は恐怖に負ける。
逃げるように反対側の階段から、駆け下りて再び走り出す。
なるべく人通りの多い場所を走り、なんとか家に着くことができた。
振り返るが、けんけんで追って来る者はいない。
男はそれからしばらくの間、駅と自宅の間を自転車で通うようにした。
それに出会うことはもうなかった。
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