かいだんしつ

かいだんしつ

 女が務めている会社が入っているビル。

 そのビルのエレベーター点検で問題が見つかり、しばらくの間エレベーターが使えなかった時の話だ。

 エレベーターが使えないなら階段を使うしかない。

 まあ、当たり前のことだ。


 その日、女は少し遅くなってから退社した。


 エレベーターが使えないことに気づいた女は、階段室の重い鉄扉を開ける。

 そこには階段だけがある。


 女が鉄扉を開けたとき、既に電気は消されており、非常灯だけが淡く光っていた。

 女はすぐ近くの電気の電源を入れる。


 弱い蛍光灯の頼りない明かりが階段室を照らす。


 普段あまり使ったことのない階段だ。

 けど、たまに使えばいい運動になるかもしれない。

 女はそんなことを考えて、階段を降りだす。

 

 女の会社は七階にある。

 結構な階数を降りなければならない。

 仕事で疲れていたせいか、女は何も考えずに階段を降りていく。

 何階も何階分も。


 しばらく階段を降りて、女は気づく。

 まだ一階には着かないのかと。


 ちょうど踊り場だったので階段の階数表示を見る。

 踊り場の看板には「7/6」と表示が書かれている。


 女は驚く。

 そして、上を見上げる。

 そこには先ほど自分がくぐった鉄扉があり、七階の表記が見えた。

 いくら何でもおかしい。

 女はそう思いはしたが、ぼーとしていたことも事実だ。


 そんなに疲れていたのか、と、再び階段を降りだす。

 だが、降りた先は七階だった。


 女は目が点になる。

 そして、七階の鉄扉を開ける。

 そこは女の会社が入ってるフロアで間違いはない。


 女はもう一度階段を降りる。

 そうするとやはり七階に着く。


 女は本格的に焦りだす。

 自分がおかしくなったのかと。

 とりあえず、女は会社に戻る。

 まだ働いている先輩や上司がちゃんといる。


 そこで女が彼らに、階段が降りないことを告げると笑われる。

 それでも女が余りにも真剣なので、彼らも階段室についていき階段を三人で降りる。

 今度はちゃんと六階に着く。


 女は首をひねるのだが、先輩や上司からは笑われるだけだった。

 先輩と上司はそのまま階段を上がっていった。


 女が首をかしげていると、先輩と上司が下の階段から上がって来た。

 女と目が合い、全員目が点となった。


 その後は普通に階段を降りれるようになっていた。


 ただそれだけの話だ。



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