といれのと
といれのと
男は会社に一人残り残業をしていた。
夜遅くまでだ。
会社が入っているビル自体に恐らく男しか人間はいないだろう。
ただもうすぐ終電がなくなる時間だ。
仕事は終わらないが、流石に寝泊まりする気は男にはない。
男はきりの良いところで仕事をきりあげて、会社の戸締りを確認する。
最後にトイレに行く。
そこでふと違和感を覚える。
すぐに違和感の正体に気づく。
個室のトイレの扉が一つだけ閉まっているのだ。
男はびっくりするが、一応確認をしなければならない。
トイレの入口から大きな声で声をかける。
返事は何も返ってこない。
蛍光灯の青白い光すら、なんだかその時は不気味に思えた。
男はどうしようか迷う。
このまま戸締りをして帰ることもできるが、もしトイレに人がいて警備会社が動けば怒られるのは自分だ。
けれども、仮に人がいるとしても、返事がないことを考えると少なくとも会社の人間ではない。
いや、社長か部長辺りが酒に酔いトイレの中で寝ている、なんてことはありそうだ、と男は思い返す。
仕方なく男は、その閉まっているトイレのドアの近くまで行く。
そこですぐに気づく。
トイレのドアは完全に閉まっているわけではない。半開きになっているだけだと。
誰かがちゃんと閉じなかっただけだと。
そこで再び男は違和感を覚える。
トイレの扉は大体てきとうに閉めても開くようになっているのでは、そういう作りになっているのではないかと。
トレイのドアになにか物が挟まっているわけでもない。
なのにトイレのドアがちゃんと閉まっていないのはおかしい。
男は恐怖に駆られながらも、手でトイレのドアを押そうとする。
その時だ。
トイレの閉まりきっていないドアの合間から、誰かが覗いているのに気が付く。
子供くらいの目線だろうか。
そこに子供ではなく青白い成人しているだろうくらいの男の顔があった。
男は驚く。
咄嗟に逃げ出し、トイレから一旦出る。
深呼吸をして、トイレの入口から再びトイレの中を覗くと、閉まっていた扉が開いていた。
中にはもちろん誰もいない。
男は手早く戸締りの確認をして帰宅した。
次の日、会社の人間に色々聞いて回ったが、そんなことを体験した人は他に居なかった。
男もそんな体験をしたのは、その時の一度きりだった。
なので、たまたまトイレを借りに来た者が居ただけだろう、と男も思うことにした。
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