おはかのまえ
おはかのまえ
A子は毎日三十分もかけて自転車通学をしていた。
バスもあるが、学校行きのバスが止まるバス停までがまず遠い。
というのも、通っている高校が森と田んぼのど真ん中にあるためだ。
A子が住んでいるところは普通の住宅地なのだが、その高校がある場所はそんな場所だった。
そちらに行くバス自体の本数も少なく、そのバス停自体もAの自宅からは遠い。
ついでに電車だと、高校の付近に駅はなく更に遠回りになり余計に時間が掛かる。
そんな場所にある高校にA子は三十分も時間をかけて自転車で通っていた。
ある程度通っていると近道も分かってくる。
林の中の遊歩道的なところを突っ切るルートもあるが、女であるA子はそのような場所は避けていた。
A子が通るルートはなるべく人通りがある通りを通る。
それが最低条件だ。
ただどうしても高校の付近はその条件を満たしにくかった。
なにせ畑と森しかないようなところに建てられている高校なのだから。
それでもA子は比較的人通りの多い場所を通る。
のだが、どうしても一カ所、近道をする上で通らなければならない場所があった。
それがお墓の前だ。
ぽつんと三基だけ、お墓が立っている。
一つはとても古いお墓。もう一つは大きく立派なお墓。もう一つはそれらの中間のような、そんなお墓だった。
それが三基ならんで立っている。
その前の道も地面が露出した、いうならば泥道になっている。
その道を必ず通らなくてはいけない。
ついでに付近には街灯もない。
A子も暗くなるとその道は使わずに一番の大通りを通って帰る。
ただ大通りと言えど歩行者用の道路がある様な道ではない。
どちらかというと大型のトラックが道すれすれを走っていく、そんな危険な通りなのだ。
だから、普段は大通りを避けてA子は帰っていた。
日が落ちるほど暗くなるとしかなく遠回りの大通りで帰っていた。
大通りを避け近道を使うなら、三つ並んだお墓前を通らないといけない。
ついでに、お墓のある方は、お墓以外雑木林、お墓の前は田んぼ、お墓と田んぼの前を泥道が通っている。
もちろん街灯もないもない。
そんな道だった。
幸いなことにその泥道は精々三十メートルくらいでそれほど距離はない。
すぐに民家と街灯と、ついでになぜが二頭だけ飼われている牛舎がある場所に繋がっている。
そこさえ、お墓の前さえ通れればそれほど問題のない近道なのだ。
それだけならいいのだが、たまにだがその墓の前を通ると、自転車のライトが消えるときがあった。
その頃のライトは、自転車の前輪を回すことで着くタイプのライトであったため、泥道を通ることで車輪に泥が付着しそれでライトの発電機が空回りをしてライトが一時的につかなくなる、とA子は父親からそう説明を受けていた。
そして、それをA子も信じていた。
なので、それほど気には止めてはいなかったのだが、何度かそのお墓の前を通るときだけ自転車のライトが消えると言うことがあった。
それもあってA子は暗くなると、その近道は使わない事にしていたのだ。
その日は部活で遅くなった。
日も完全に落ち真っ暗だった。
ただその日は部活で非常に疲れており、A子は近道で帰りたかった。
ちょっと真っ暗な道を通るだけで、後は車もそれほど通らない道を自転車で通るだけだ。
A子は近道を使うことを考えていて、実際に近道に行くルートを通ってしまった。
大通りを避け、一応は舗装さえた田んぼ道に入り、小さな橋を通り、林の脇道を行き、お墓の前を通る。
ただそれだけだ。
お墓の前の泥道に差し掛かった時、その日も自転車のライトが消えた。
A子は泥がついて、空回りしているだけ、と自分に言い聞かせてお墓の前を通り過ぎる。
その時、どこからともなく、
「眩しいぞ」
という声が聞こえて来た。
野太い男の声だった。
しかも、それは高い位置、とてもじゃないが、人がいるはずもない、高い、何もない位置から聞こえて来たのだ。
A子は焦りながらも自転車を漕ぐことはやめない。
すぐにお墓の前を通り過ぎ、民家がある場所へとたどり着く。
その頃には自転車のライトも勝手に直っている。
それ以来、その近道は日が暮れてなくともA子は使わなくなった。
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