となりのもり:02
智治は管理人の指示に従って、アパートにある管理人の部屋を訪ねた。
部屋のチャイムを鳴らすと、すぐに管理人が顔を出す。
「子供を見たって言うのは本当か?」
管理人の親父が切羽詰まった感じでそう聞いてきた。
「は、はい! やっぱりその…… なんかある森なんですか?」
管理人の表情を見た智治は、あの森にやはり何かあるのかとそう思う。
「なんかある?」
ただそう聞かれた管理人は不思議そうな表情を見せる。
「その曰く付きの……」
「は? 何言ってんだ?」
そして、少し怒ったような顔をする。
「え?」
「とにかく警察にも連絡しないと」
そう言って、管理人はスマホを取り出して電話しだした。
「警察?」
と、聞き返すと、
「ああ、たまに子供が入り込んで出れなくなることがあるんだよ」
と、そう言った後、電話がつながった管理人は警察に事情を説明し始めた。
「あっ、ああ…… そう言う……」
「ん? どうした?」
警察に連絡が終わった管理人は、少し残念そうな智治を見てそう言った。
「いや、昨日見た子供が、どうしても、その、幽霊か何かに思えてしまっていて……」
と、智治は隠さずにそのことを伝える。
幽霊と完全に思い込んでいた智治としたら、警察を呼び捜索が始まるほうが予想外だった。
だが、普通に考えればそうれはそうだと言う話だ。
「それで今頃知らせえ来たってわけか。ふむ、だがな、あの土地はそう言った話は聞かねえなぁ。爺さんの時には畑だったし、その前も畑だ」
管理人はそう言った。
「そうなんですか? あそこだけ手つかずでそういうものだと……」
その言葉に、管理人は少し恥ずかしそうな笑顔を見せる。
「いやな、開発するための資金が尽きちまってな。あそこだけそのままなんだよ。ご先祖様の土地だし売るのもなぁ、と思ってたら、気が付いたら森にまでなっててなぁ」
「そ、そうなんですね。あ、と言うことはあの森にはいるんですよね? 私も一緒していいですか?」
そう言うことであれば、安心してあの森へ入ることが出来ると智治も思った。
あの森の内部がどうなっているのかは興味も前々からあった。
「それはいいけど、ああ、今日は土曜か。まあ、人では多い方がいいから、軍手やらなにやらかしてやっから、汚れてもいい服で来いよ」
管理人のほうも、どうせ警察に詳細を聞かせるときに立ち合わせるつもりでいたので、智治の申し出を喜んで受けた。
そんなわけで警察の応援を待って智治も森へ入った。
やってきた警察は二名だけだ。
管理人と顔見知りの警官らしく、親し気に挨拶をしていた。
外から見ると鬱蒼とした森であったが、内部へと入るとそうでもない。
その代わり酷い藪になっている。
ただ砂利道も作られていて、中を進むことにそれほど困りはしない。
「おーい、誰かおるかー」
と叫びながら、先へと進む。
内部の砂利道を一周するのに十分もからない程度の広さしかない。
「いませんでしたね……」
人がいた形跡はない。
いつの頃かもわからない腐葉土のような落ち葉が敷き詰められているし、その上を人が歩けばなにかしらの痕跡が残りそうなものだが、その後も見当たらない。
「行方不明届とか出てらんのか?」
管理人が警察官に聞くと、
「今のところ子供のは出てないですね」
と、返答が返って来た。
数カ月前に老人の捜索願が出ているくらいだと言う。
「とりあえず佐藤さんが見たっていうアパートの方をもう一度見てくか」
管理人がそう提案する。
「そうですね」
警察もそれに同意する。
砂利道から藪に入り、アパートが見えるところまで行く。
流石に藪で歩きにくいが、智治もそれに続く。
藪を抜け、アパート側のフェンスが見える場所にまで行く。
「ここです、この街灯の下の辺り、ここでフェンスをガシャンガシャンと揺らしてました」
アパートと森を分ける小道にある街灯のちょうど真下なので場所に間違いはない。
「ふむ……」
と、管理人が声を上げる。
ここまで藪は踏み荒らされていない。
つまり人がいた形跡はやはりない。
ただ、警官の一人がフェンスを見て何かを見つける。
「なんか、付いてますね、べっとりとフェンスに」
警官も触りたくはないのか、触れずに観察している。
「なんですか?」
「白く透明な…… なんですかね、これ? でも内側だけですね」
確かに白く透明な泡立つ粘液のようなものがべったりと付着している。
そして、それは床にも付着して森の奥へと続いている。
「何かいたのは…… 本当みたいですね……」
若干警官が顔を青ざめながらそう言った。
「ナメクジの通った後みてぇだな」
管理人がそんなことを言う。
「こんなおっきなナメクジいるんですか?」
と智治が聞くと、
「いるわけねぇだろ」
と、答えが返って来た。
その後、地面に付着した粘液のようなものを追っては見たが、すぐに途切れていて後を追うことはできなかった。
しばらく捜索したものの成果はなにも出ず。
解散となった。
智治は管理人にも警察官にも頭を下げた。
「いや、まあ、なんかいた形跡はあったんだ、嘘じゃないのはわかるよ」
と、言ってもらえたことが智治にとっての救いだ。
その後も智治はたまに森を見ながら酒を飲む。
だが、その森でそんなことが起きたのはその時だけだった。
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