異世界に来ましたが大好きな温泉がありませんでした。

イルミア

第1話 始まりの下校時間

「あーあ。由衣ゆい、温泉だらけだよー。こんなに作ってどうするのー?」


 隣にいるライに呆れ気味に言われる。


「いやー温泉っていろんな種類があって、ここにあるの全部種類がちがうからー」


温かいお湯に手を突っ込みながらそう言い訳を言う。こっち異世界に来た時に変わってしまった自分の姿が水面に映る。


「まぁこう言ってる自分も温泉好きだからなんも言えないなあ。で、なんでそんな悲しい顔してるの?」


「それは単純。温泉という素晴らしいものが知られてないのが悲しいからね」


 そういいながら私は別の温泉の水質チェックに移る。あぁ、あの時はこんなことになるなんて思わなかったなー。

 時は1か月前にさかのぼる。



 

 私の名前は雨水 由衣あまみず ゆい。どこにでもいそうな小学六年生だ。

 何か周りの子と比べて違うのは、温泉が大好きくらいかな? でも温泉によってはじんましんができるということがある。

 たくさん温泉に行けるときは、2か月に1回くらい、正直言って物足りない。


「あー早く明日にならないかなー?」


 今は午後の3時45分過ぎくらいかな? 時計がないから細かくは分からないけど、そのくらいだ。まあちょうど下校中だね。明日は待ちに待った温泉に行く日! 温泉が楽しみで仕方ないのだー! 

 帰ったら宿題早く終わらせて、晩御飯作ってたべてお風呂入って寝るだけ。そして起きたら、即温泉に出発。最初に入る湯舟はどれにしようか……。シュワシュワはじける炭酸泉か、電流がびりびり流れてる電流風呂。いや、普通に37℃のぬるめの温泉もいいなー。温泉入った後はさらにほかの温泉に入る。入った後塩サウナと普通のサウナを満喫して……あぁー! もう考えるだけで幸せな気分。

 たくさん温泉のことを考えていると、不意に


 シャリン。


 と、涼しげでとてもきれいな鈴の音が鳴った。

 音が鳴った方向…………右後ろかな? 

 右後ろから聞こえた気がするので、右後ろを向く。そこには、


「にゃーん」


 雪のように真っ白できれいな猫がいた。毛が長いから、生きる雲だよ! 若葉のような緑と海のように深く、とても澄んだ青のオッドアイをしてる。そしてその猫はその宝石のような目を私に向けている。

 この猫初めて見た。最近移動してきたのかな? 


「かわいいー! 撫でさせてー!」

 

 実は私、温泉の次に大好きなのは猫で、とってもふわふわな毛を見ると思わず抱き着きたくなるのだ。まあそんなことしたら、猫が逃げちゃうのは分かってるからいつも我慢してる。

 かけ寄ろうとしてはっとする。こんなに活きよいよく行ったら猫が警戒するかもしれない……。

 ゆっくり歩いて近づき、手を伸ばして「おいで」と声をかける。

 意外にもその猫は人懐っこいのかすぐに私の手に近づき、おでこをぐりぐりとした。

 ちなみに白猫は初対面の人には警戒心が高い、人見知りな子が多くて、黒猫が人懐っこく、甘えん坊な性格の子が多いらしい。つまりこの子はとってもレアな子って感じだ。


「うわぁーもふもふー。この貴重なモフモフ成分で私は半分生きているといっても過言ではない(ちなみにもう半分は温泉)」


 そう言うと、……なんかこの猫、ジト目で見てくるんだけど?

 ……もしかして人の言葉わかってたり?

 私がサカバンバスピスの顔でぽかんとしていると、真後ろ……下校進路左斜めに白猫は走ってった……。


「待って! そっち横断歩道!」


 急いで追いかけながら歩道の信号の色を確認する。赤-! はいアウトでーす!

 そして猫は横断歩道に出てしまった。車が猛スピード……多分時速80㎞くらいのスピードかな? 私のおばあちゃんいつもここをあの速さよりそこそこ遅いくらいで走ってるから、ってそんなこと考えてる場合じゃなーい! 

 運転手は猫が見えていない様子だった(ちょうど白いところにいたから同化してるのかも)。このままじゃ猫がひかれちゃう! 

 私は急いでそこにつき、猫をかばう。運転手は私に気づきスピードを落とすが、間に合わないことは明白だ。あぁ温泉入る前に、棺桶に入るのかぁ。と考えていたら、


「ヴォオン」


 スター〇ォーズのライトセイバーが振り回された音のようなものと同時に、白く淡い光が広がった。白い光は円の形に整っていき、円の中では六芒星ろくぼうせいが歯車のように敷き詰められ、くるくると回っている。

 もしかして魔法陣!? ってことはこの猫、魔法使いだったの!?

 銭湯の漫画やファンタジー小説の読み過ぎで瞬時に理解できた。まさかこんなところで「そんなのどこに使うんだ知識」が発動するとは!

 そんなことを考えている間に、六芒星の回転するスピードが急に速くなっていき猫と私がひかりはじめた。

 魔法を使ってひかれずに済む方法といったらバリアか、転移か……後者なわけないよね? だったら自分巻き込まれでどこかに飛ばされるんですが? 

 そんなこと考えていると光が急速に強くなっていきまぶしすぎて思わず目をとじてしまった。

 しばらくすると光が収まっていくのを感じ、ゆっくり目をあける。

 そこに広がっていた景色は、一言でいうと「なにこれぇ」という感じだ。だってそこは一面真っ白なのだから。

……これもしかして転移させられた? 

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