少し変わった報労金

ささみ

第1話

道端で老人が財布を拾った。中には43万円が入ってた。

すぐに交番に届けると落とし主がおり、手続きを済ませ落とし主に財布は還された。

報労金の話は個人間でやりとしてくださいとのことだった。

お互い連絡先を交換するとそそくさと落とし主の男はその場を去ってしまった。

老人はまぁ急いでいるだろうし、大金の入った財布を落として見つかって気がまだ動転しているのだろうと思った。

後日老人が男に電話をすると、「あ、今忙しいんで」と取り付く島もなく電話を切られてしまった。日をおいてまた老人は電話するもそれから一向に電話には出なかった。

これに老人は怒り、裁判を起こした。

内容は報労金の権利を主張し、約8万円ほどの報労金の支払いを男に求めた。

結果は7万ほどに減額されたが、老人の望む形となった。

裁判官は男に「なにかいいたいことはありますか?」と聞くと

男は「ありがとうございました」と初めてお礼を言った。

老人は取材に対し、「お金が欲しかったのではなく、謝意を伝えてくれれば提訴はしなかった」と述べ、男は「忙しくて対応できなかった、こんなことなら早めにお礼を言えばよかった」と答えた。


数年後、二人はまた出会うことになる。

裁判後、その噂からか男は仕事がうまくいかず、ド田舎の実家に戻り昼間から客の寄り付かないスナックで酒を煽っていた。そこに女が入ってくる。女は歳は30代前半くらいで顔はこの世のものとは思えないほど美形だった。ただ身なりはあまり良くなく、爪はボロボロ、服は昭和時代に流行ったでおろう赤のミニスカートワンピース。この時代にあえてレトロファッションを意識しているのだろうか。酒は強いようで水のように酒を飲んでいた。しばらく色っぽい事に疎遠だった男は浮かれて女の誘いを受けてしまいその後、一夜を共にした。ベッドに入る前に女は男にあるお願いをした。「ある物を届けてほしい、この場所に車が置いてある、その車に乗ってこの地図のところまで行ってほしい」

男は情事の前の勢いでまた急いでそのお願いを受け入れてしまった。

朝になると女は部屋からいなくなっていた。男は昨夜のことを思い出しながらまた二度寝をしようとすると、枕元に紙があることに気づいた。まどろむ思考の中で昨夜の「お願い」を思い出し面倒なことを頼まれてしまったと後悔した。しかし金に困っていた男はやることもないこんな片田舎にいるよりはマシだと思い、二度寝をやめシャワーを浴び、埃のかぶった一張羅のコートを着て外に出た。


老人はあてにしていた年金が役所の書類不備で延期されてしまい来月からまた年金が入るまでの間どうしようかと公園のベンチに座り両手で頭を抱えながら途方に暮れていた。

「なにかお困りですか?」視線を上げるとそこには女が立っていた。60代ほどの女だった。老人は女を見て少し驚いた。それは60代ほどであるが服装が若々しいというか、かなり年齢に不釣り合いな格好であった。

老人は「確かに困ってはいるが、時代遅れの赤いワンピースを着てるような人には離したくはないな、、、」と少し突き放すように冗談めいて答えた。

女は「もしお金で困ってるなら少し頼まれごとを聞いてくれませんか?ある物を届けてほしい、この場所に車が置いてある、その車に乗ってこの地図のところまで行ってほしい」

報酬はあなたがしばらく困らない程度には渡せるはずよ、まぁ人助けだと思って助けてほしい、別に犯罪とかそういう危ないことだけは言っておくわ」

老人が紙を受け取り地図を見て顔を上げるとそこに女はいなかった。

老人はこんなバカなお願いを聞くわけないだろと思って紙を捨てようとしたが、女の人助けという言葉と確かに金がないこと、これからの人生でこんな事ももうないだろう、自身の少年時代を思い出し、喧嘩の仲裁や危なっかしい事など、どの友達よりも先んじて飛び出していた。

気がつくと、紙を握り締めベンチから立ち上がっていた。


約束の車の前で向き合う2人

2人の脳裏に数年前の裁判を思い出される

男は負けて謝ったことを思い出し舌打ちをした

老人は勝ったが、こんなことまでして謝意を受けて何がしたかったんだろうと後悔を思い出し俯いた。

お互い何も言わず相手を無視し運転席のドアノブに手をかける

二人「はぁっ?!」


そうして二人は目的地にむかいながら日々を過ごすことになる。

その道すがらやはり男は老人になにかしてもらっても、お礼をいっさい言わずそのたびに老人は舌打ちをしていた。

しかしそれでも日々をなんとか協力して過ごしていくたびに二人に友情のようなものが芽生え始め助け助けられるのが当然な相棒になっていく。

目的地も近くなってきた時、男が重大事故に巻き込まれそうになるも、老人の機知で男は命からがら助かる。しかし老人は深手を負ってしまい、死にかける。

男はなんとか助けようとするもどうにもならず、老人にむけて「ありがとう」と言おうとするも、老人は男に「相棒なんだから、礼はいらねえよ、それに今お前は忙しいんだろ?かまわずいけよ」と笑いながら答える。男は力が抜けていく老人の手を握りながら、「ありがとう」と言う。

その瞬間、老人の傷は癒え息を吹き返す。

驚く二人の前に悪魔が現れる。

悪魔は「ずっとお前ら見てきたけど、お前ら好きだわ、粋っていうやつ?ありがとうが言えない奴と言える奴を強制的に引っ付けたらどうなるか試したら面白いもんが見れた。礼に助けてやるよ、ただ報労金ってやつ?あの考えだと確か1割を渡すっていうやつだから男の寿命を老人に渡したからな、手間賃はサービスしてやらぁ」そう言って、消えていく悪魔を見ながら二人は笑い合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少し変わった報労金 ささみ @nekotas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ