相続した遺品が異世界と繋がってるんスけど……

書仙凡人

第1章 水鏡の先の女王

vol.1 銀の器



    [Ⅰ]



 これは俺の摩訶不思議体験記録である。

 誰がなんと言おうと、実話ったら実話だ。

 でも、多少の脚色はあるのであしからず。

 つーわけで始めるぞ。

 おおっと……そう言えば、大事な事を忘れていたよ。

 その前に、自己紹介を簡単にしておくとしよう。

 あ、そこの読んでる君ィ。今、『何を白々しい……』と、思っただろう?

 ああ、そうだとも。白々しい演出だ。馬鹿げた話には、馬鹿げた演出も必要なのさ。

 気にせず、手元のコーヒー牛乳にミルクと砂糖でも足しながら、気楽に付き合ってくれ。

 ではまず著者の俺だが、名前は真島耕助。

 どこぞの名探偵と同じ名前だが、そんな才能はない。が、意外と疑り深い性格ではある。まぁあくまでも俺が思ってるだけだがな。

 年齢は28歳。性別は男。身長175cm。体重65kg。髪型は爽やかなベリーショート。

 そして、とある地方都市の1DKアパートで1人暮らしをしているところだ。 

 職業はわけあって無職。現在、求職中である。

 それから独身で、俗に言う、負け組というやつだ。

 だが、俺は負けたとは思ってない。いずれ必ず……いや、ここでイキるのはやめとこう。虚しくなる。

 それと彼女はいない。いない歴はまぁ筋金入りだ。というか、女には結構痛い目に遭ってるので、暫くそういう方面は休憩中である。

 あと、俺は意外とミニマリストで、余計なモノを極力持たないようにしている。

 なので、置いてある家電製品や家財道具もそんなにない。 

 必要最低限な物しかないから、アパートはすこぶる綺麗なのである。

 というわけで、取り立てて何も特徴がない、アパート1人暮らしのしょうもないアラサー男というのが俺のスペックなのであった。

 世間一般的には、甲斐性なしのつまらない男となるのだろう。

 はいはい、自分でもわかってんだよ、そんな事はね。

 じゃあ自己紹介も終えた事だし、本編に行くぞ。



   [Ⅱ]



 事の発端は数ヶ月前に遡る。

 それは、とある春の日の出来事だった。

 食材がないので昼食を買いに出掛けようとしていた時に、突如、玄関の呼び鈴が鳴り響いたのである。

 玄関扉を開くと、そこにはスーツ姿の中年男が立っていた。

 口髭を生やしたダンディーなイケオジで、スーツの着こなしもなかなかに決まっている。

 また、男の手には菓子折りでも入っているのか、そこそこ大きな風呂敷包みが握られていた。

 こういう手合いは良く来るので、俺はこの男を見た瞬間、こう考えていたのである。

(ああもう……またかよ。どうせ、胡散臭い宗教や自己啓発セミナー系の勧誘だろうな。忙しいのを理由に帰ってもらおう……ウゼーんだよ、ったく)

 アパート住まいのあるあるであった。

 こういうのは面倒な事この上ないのである。

 俺がそんな事を考える中、男はニコリと微笑んだ。


「こちらは真島耕助様のお宅でしょうか?」

「はぁ、そうですが……どちら様で?」


 男は俺に一礼し、名刺を差し出すと、自己紹介を始めた。


「私は貴方の母方の祖父である故・風間清十郎様より、遺産相続手続き代行業務を請負ました弁護士の内山田と申します。清十郎様からは遺言状を預かっておりまして、今日はその件でお伺いさせていただきました」

「え……遺産相続?」

「はい。少々、込み入った話ですので、お部屋でお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「は、はい、ではどうぞ」


 なんと男は法律事務所の弁護士さんだったのだ。

 その後、俺は部屋に弁護士を招き入れ、ローテーブルを挟んで話を聞く事となった。

 話の内容は単純で、風間の祖父じいさんの金融資産の一部である4000万円が、俺に転がり込んでくるというモノであった。

 母の弟である叔父さんとの遺産分割になるそうだが、俺の母はもう既に亡くなっているので、一応、形式的には代襲相続になるとの事だ。

 ちなみにだが、叔父さんは風間の家を出ており、祖父さんとは一緒に住んでない。

 仲が悪いというわけではないが、別に所帯を持っているので、あの田舎の屋敷をどうするのか気になるところである。

 おまけに、祖父の奥さんはちょっと前に亡くなっているので、ここ数年は1人で暮らしていたそうだ。

 俺も昔はよく風間の家にお邪魔する事があったが、母が亡くなってからは行くことが無かった。

 ここ最近行ったのも、風間の祖父さんの葬式くらいであった。

 なので、風間の祖父さんは、ちょっと可愛そうな晩年だったのである。

 以前、母から聞いた話だと、風間の家は風魔一族の末裔らしいので、こうやって代が途絶えるのも、祖父からすると想定外だったに違いない。

 まぁそれはさておき、金額が凄かったので、俺はこの時、思わず息を飲んでしまったのであった。

 これは仕方ないだろう。

 会社を辞めて求職中であり、尚且つ、預金残高も50万を切った俺からすると、まさに晴天の霹靂といえる話だったからだ。

 祖父さんはそこそこの資産を持っていると聞いていたが、それがまさか一部とはいえ、自分に転がり込んでくるとは思ってもいなかったのである。

 だがしかし、弁護士はこうも付け加えたのであった。


「清十郎様の遺言により、今言った現金4000万円が、貴方の相続できる金額となるのですが……1つ条件があるのです。清十郎様は、この遺品を受け取った場合にのみ、今言った金額を耕助様にお譲りすると遺言状に書かれているのですよ」

「遺品?」


 そして弁護士は、ローテーブルの上にあの風呂敷包みを置き、縛りを解いたのである。

 風呂敷の中にあったのは、古い桐箱であった。

 所々にシミみたいなのがあり、綺麗な箱ではない。

 大きさは約40cm角の正方形で、厚みは10cm程度。

 なので、それほど大きな遺品ではなかった。


「どうぞ、中をご覧になってください。清十郎様は、嘗て奥様と一緒に作り上げたモノだと仰っておりました」

「え? 祖父母が? よく分かりませんが……では確認させていただきます」


 俺は弁護士に促されるまま、桐箱の蓋をそっと開けた。

 すると中には、銀製と思われる古めかしい皿が1枚入っていたのである。

 皿は直径30cmほどで、金属製という以外、取り立てて特徴がないモノであった。

 ただ、1つだけ目を引いた部分があった。

 それは何かというと、皿の真ん中には、魔法陣のような刻印が彫られていたからである。

 その刻印は、真円の中で2つの四角形が絡み合う八芒星のような紋様であった。

 また、その周囲には、小さい象形文字のようなモノが幾つも彫られていたのである。

 俺の第一印象は(西洋アンティークもどきの皿?)といった感じであった。

 そんな銀の皿を暫し眺めていると、弁護士の男は封筒を俺に差し出してきたのだ。

 封筒は厳重に糊付けしてあり、更にその上から風間の印鑑が押されていた。


「故・清十郎様より、この封書を預かっております。どうぞ、中をご確認ください。清十郎様からは、耕助様がそれを読んだ後に相続の確認をするよう、仰せつかっておりますので」

「わかりました」


 つーわけで、俺は厳重に閉じられた封書を開き、中の便箋を確認したのである。

 内容はこんな感じだ――



 耕助よ、元気にしているか?

 お前に最後に会ったのは5年ほど前だな。懐かしいの。

 積もる話もあったが、これを耕助が読んでいるという事は、私はもうこの世におらぬのだろう。

 本来なら、直接会って話をしたいところだが、その為だけに、遠方に住まう耕助にわざわざ来てもらうのも悪い。

 それに最近は、私の病状も思わしくないので、こういう形を取らせてもらった。

 細かい話は弁護士の内山田から聞いたとは思うが、お前にはまず、当家に伝わる銀の器の話をせねばなるまい。

 これは弁護士の内山田にも内緒の話だ。だから他言無用で頼む。よいな?

 さて、話を本題に戻そう。

 我が風間家にはその昔、幕末の遣欧使節団に帯同した者がいたそうだ。

 そして、その先祖は使節団としてプロイセン王国、つまり現在のドイツに行った際、ヤーコプ・ルードヴィヒ・カール・グリムという人物を訪問したらしい。

 この者は、グリム童話の著者で有名な、あのグリム兄弟の1人だそうだ。

 何が目的でヤーコプ殿の元へ行ったのかはわからないが、恐らくは、西洋文学への興味からなのだろう。

 だが話はこれで終わらない。

 実は去り際に、ご先祖様はヤーコプ殿から、あるモノを預かったそうなのだ。

 それが今話した銀の器なのだよ。

 ご先祖様はヤーコプ殿から、こんなお願いをされたそうだ。


「この銀の器を貴殿に預けたい。この器を遠く離れた貴国へと持ち帰ってほしいのだ。そして、あまり人目につかぬようにしてもらいたい。それからこの器は厄介な性質があるので、なるべく、真水に触れさせぬように保管してほしいのだ。妙な事が起きるのでな。不躾な頼みだが、お願いできるだろうか?」と。


 そして、ご先祖はそれを了承し、日本に持ち帰ったのだよ。

 それ以来、当家はこの器をずっと保管し続けてきた。

 そういうわけで、この器がなんなのか、まったくわからんのだが、とりあえず、当家は私の死後、家が途絶える事になる。

 よって、この器の管理を今後は耕助に託したいのだ。

 耕助は私が見たところ、母に似て誠実そうだからな。

 一応、私の息子にもこの話をしたのだが、耕助にお願いしたらどうかと打診があったのだよ。

 お前も母から聞いているとは思うが、我が風間家は風摩一族の流れを汲む家なので、そういった諸々と不動産に関しては息子に相続してもらうのだが、この器に関してはあまり乗り気じゃないんでな。

 だから耕助にお願いしたいのだよ。

 理由は以上だが、引き受けてもらえるだろうか?

 もし引き受けてもらえるなら、私の預貯金の半分である4000万円を耕助に譲ろう。

 返事は弁護士の内山田にすればよい。


 そうそう。それから、風の噂で聞いたが、お前も会社で色々あって落ち込んでいるそうだな。

 まぁこれも何かの縁だ。お前も何かと入り用だろうから、引き受けてくれるなら、この金は好きにすればよいからな。

 では、色よい返事を頼んだぞ。

                          祖父より――



 と、まぁこんな内容なのであった。

 俺はさして面倒な事でもなかったので、その場で弁護士に返事をしたのである。

 勿論、返事はイエス! だ。

 だって……お金めっちゃ入るやんか。

 俺は完全に浮かれてしまい、【お祖父ちゃん、超ありがとう!】ってな感じになってしまっていたのだ。

 だがしかし……あんな事が起きるとは、この時の俺は知る由もないのであった。

 ちなみに、弁護士は返事を聞いた後、相続手続きに入る旨を伝え、銀の器を置いて帰っていった。

 そして、それから数週間後、正式な手続きも終わり、俺は4000万という大金を手に入れたのであ~る。

 400万近い相続税がちょっと痛かったが、まぁそこは勘弁してやるとしよう。



   [Ⅲ]


 

 祖父の相続手続きを終えた後、俺はローテーブルに置いてある曰く付きの銀の器を眺め、ぼんやりと考えていた。

 それは勿論、この器についてである。

 この器の出所が結構意外な人物からなので、それが引っ掛かっていたのだ。

(しかし、ヤーコプ・グリムに遣欧使節団ねぇ……本当かよ。これがもし本当なら、凄い価値がある器なんじゃないのか、これ……。おまけに、厄介な性質があるから、なるべく、真水に触れさせるなって話だけど……どういう事だろな? 銀の器だから錆びる事はないと思うんだけど。つか、銀じゃないのか、コレ? でも、見た感じはシルバーっぽいんだよな……う~ん)

 そう、それがよくわからないところであった。

 銀は硫化して黒くなる事はあっても、酸化は滅多にしないからである。

(でも、なるべくって事は……ちょっとくらいなら良いのかもな。妙な事が起きるってのも気になるし……試してみるか)

 やるなと言われると、やりたくなるのが人間てもんである。

 ちょっとくらい良いだろうと思い、俺は大き目のコップに水を汲み、ドバーと遠慮なく水を注いだのであった。

 しかし、何も起きなかった。

 思ったとおりである。

(なんだ、やっぱり何も起きないじゃないか。……ン?)

 などと思っていた、その時であった。

 なぜか知らないが、器の底にある魔法陣みたいな紋様が、淡く光ったのである。

 そして奇妙な現象が現れたのであった。

 俺は息を飲み、思わず目を見開いた。

 なぜなら、俄には信じられない事態が起きていたからだ。


「え? なんで? これは、一体どういうことだ……なんでこんなモノが見える……わけがわからない……」


 俺は呆然とそう呟くしかできなかった。

 なぜなら、水面にボワッと妙な絵が浮かび上がって来たからである。

 白い石積みの壁の部屋を描いた絵なのだが、非常にリアルであった。

 まるで写真を見ているかのような感じの絵なのだ。

 見たところ四角い部屋で、奥の壁面には西洋風の茶色い扉が1つあり、床には赤い絨毯が敷かれていた。

 また、手前には供物台みたいなモノがあり、そこには果物らしき物や厳かな意匠を凝らした花瓶、そして火を灯した燭台等が置かれているのだ。

 しかもよく見ると、燭台の火はユラユラと揺らめているのである。

 正直、初めて見る光景なので、何とも形容しがたい不思議で写実的な絵であった。

 いや、燭台の火を見た感じだと、動画のようにさえ思えるくらいなのだ。

 わけがわからない現象であった。


「なんだ、この絵は……すっげぇリアルだ。ただ水を注いだだけなのに、こんな絵が浮かんでくるなんて……どういう仕組みになってんだよ、この皿……怖っ」


 そう、俺はこの時、絵だと思っていた。

 だがしかし……それから暫くすると、有り得ない異変が現れたのである。

 なんと、奥の扉が開き、そこから白いローブのような衣を纏った人物が現れたのだ。

 それはまるで映画でも見ているかのような光景であった。

 白い衣を纏った者は、徐々にこちらへと近づいてくる。

 すると近づいてきたのは、線が細く華奢な体型の若く美しい女性であった。

 長いブロンドの髪を後ろで纏め、カチューシャのような髪飾りをしている。

 顔つきは欧米のような白人ぽかったが、あまりにも綺麗で整った顔付きなので、人形と見紛うくらいであった。

 それくらい美しい女性だったのである。

 だが、少し違和感があった。

 なぜなら、耳が少し尖っていたからだ。

 ファンタジー系のアニメで見かけるエルフほど長くはないが、少し似た形状の耳なのである。

 おまけに、こっちの方を見ながら、口元に手を当て、驚いた表情をしていたのであった。

 女性は恐る恐る手前の供物台に来ると、そこで跪き、潤んだ目で口を動かした。

 そして俺は更に驚愕したのである。


「とうとう……とうとう、長きにわたる祈りが届いたのですね。マーシアス様」


 そう、なんと声まで聞こえてきたのだ。

 但し、微妙に遅延があった。

 そして、俺はこの事態に、かなり困惑していたのである。

 開いた口が塞がらないとはこの事であった。

 わけがわからないからだ。


「はぁ? ……なんだこれ?」


 すると女性は、そこで目を見開いた。

 そして、祈りを捧げるかのように胸の前で両手を組んだのである。


「こ、声が聞こえます……あ、ああ……言い伝えは本当だったのですね。マーシアス様」


 俺は思わず立ち上がり、壁際まで後ずさった。

 これは超常現象の類なので、本能的にビビッてしまったからだ。

 まさに、面妖な! といった感じである。

 俺が侍だったならば、剣を抜いていたに違いない。


「な、なんだよ、これ? 声が聞こえてきたぞ……どうなってんだよ、この皿……なんでこんなのが映んだよ」

「マーシアス様……私の声が聞こえるのですか?」

「は? ……マ、マーシアス様? なにそれ?」


 すると女性は首を傾げたのであった。


「え? マーシアス様じゃないのですか?」


 俺は思わず、ブンブンと頭を振った。


「ち、違うよ。というか、マーシアス様ってなんですか? って、何で会話できてんだよ!」

「え? そ、そんな……ではあなたは一体」


 女性が少し落胆する中、俺は思わず自己紹介をしてしまったのである。

 気が動転したのだろう。


「お、俺は真島耕助だ……そんな名前じゃないよ。誰だよ、マーシアス様って……」

「マジマコウスケ? マーシアス様はそこに居られないのですか?」

「いないいない! ここにいるのは俺だけだ。そんな人、見た事も聞いた事もないよ。というか、貴方は一体誰なんだ?」


 だが、俺の言葉を聞いた途端、女性は崩れ落ちるようにガックリと項垂れたのである。


「そ、そんな……マーシアス様じゃないなんて……ううう」


 そして女性は悲し気に啜り泣いたのであった。

 俺はどうしていいかわからんので、とりあえず、それをただただ見詰め続けていた。

(ええっと……これ、どういう事? 意味が分からん。つか、誰だよ、この人。その前になんで会話できてる? いや、そもそも、なんで器に水を注いだだけでこんな事が起きんだよ! どーなってんだよ、風間の祖父さん! 聞いてねぇぞ、こんな話!)

 止め処なく湧いてくる疑問に、俺は自問自答を繰り返していた。

 女性は尚も、ずっと泣き続けている。

 こうしていても埒が明かないので、俺は恐る恐る器に近づき、女性に語り掛けたのである。


「あの、マーシアス様はよく分かりませんけど、なぜそんなに泣いているのですか?」


 すると女性は一転して、今度は俺を睨みつけてきたのであった。


「なんでマーシアス様じゃないのよ! もう私達は終わりだわ! 誰も救ってくれないんだから! アンタがマーシアス様じゃないなら、用なんてないわよ! 最初見た時、頼りなさそうな顔してたから不安だったのよ! やっぱり違うんじゃない! もう放っといてよ!」


 明らかに女性はブチ切れていた。

 今までの展開にもついていけなかったが、正直、この展開にもついていけないところであった。

 態度が豹変しすぎだからである。

 おまけにイラっと来る物言いだったので、俺も言い返しておいた。


「はぁ? 何言ってんだよ! 勝手に期待して、勝手に落ち込んでるのはソッチだろ! なんで俺がそんな事を言われなきゃならないんだよ! 大体、マーシアス様って誰だよ! 知らんわ、そんな奴!」

「うるさぁい! 女王の私に向かって、なんて言い方するのよ! アンタみたいな下賤な男、見た事ないわ! この無礼者!」


 女性は俺を指さしてイキリ返してきた。


「はぁ? 女王だって? 何言ってんだお前? 鞭と蝋燭持って男をシバくのが趣味なのか? なんて女だ! 俺にその趣味はねぇぞ! 他あたれや!」

「なにわけのわかんないこと言ってんのよ! 黙れ、黙れ、黙れ、黙れェェェェ!」


 俺達はぜーぜーと息を荒くしながら、そこで睨みあった。

 暫し険悪な雰囲気が続く。

(チッ……可愛い顔して、なんて高飛車で口が悪い女だ。しかし……どう考えてもおかしい。会話がかみ合ってない上に、話の筋も見えない。おまけにこの銀の器も気になる。……とりあえず、一旦落ちつくとしよう)

 俺は深呼吸し、女性にその旨を伝える事にした。


「ねぇ、君……とりあえず、少し落ち着こう。俺もちょっと言い過ぎたかもしれん。それに、俺もわけがわからないんだよね。だから、少し落ち着いて話さないか? もうちょっと気楽にね」


 すると女性も納得したのか、少し肩の力を抜いた。


「そうね……私もどうかしてたかも。少し、気分を落ち着かせるわ……」


 女性も大きく深呼吸を始めた。

 俺達は互いに深呼吸をする。

 そしてちょっと間を置いてから、まずは俺から話しかけたのであった。


「じゃあ、ちょっと色々と聞かせもらうよ。俺も順を追って知りたいから」

「わかったわ」


 摩訶不思議な会談の始まりである。

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