第2話 同期たち
訓練の厳しさに圧倒された美織。
同期入社の女子たちも、すごい、と日々思わされている。
初対面の同期達とは、少ししか話もできていないけど、みんなやっぱり可愛いし、
綺麗な子達が多い。
少しづつ仲良くなっていけるだろう。
美織の入社式は、自信が吹き飛び、不安とプレッシャーでいっぱいになった。
翌日朝、本当にテストが実施された。
かっこ埋め、虫食い問題が多く、しっかり暗記していないと書けない。
美織は「100点は取れてないな」とわかった。中途半端な勉強じゃだめだ、
と勉強方法を変えようと決めた。
翌朝返却された点数は、85点。
ギリギリ呼び出しはされなかったものの、100点が2人、95点が3人、
90点が3人もいた。
負けられないと思った。
同期達とは、席近い人からどんどん話をするようになった。
専門学校、短期大学卒の人たちもいるので、年齢は様々だ。
それでもみんなやっぱりどこかキラッと光るもの、それはおそらく見た目もあるが、どこかに強さを持っているということだと思うのだけど、性格的には優しい子が多いと思った。
2週間くらい経った頃、毎回毎回100点を取る同期が一人いるのに気がついた。
休憩時間にみんなで彼女を囲んで、「すごいねー」「どのくらい勉強してるの?」「睡眠時間少ないでしょ」とみんなで質問をすると、
「いやー、まぐれで、勘が当たっただけだよー」とニコニコして答えた彼女を見て、美織は「絶対そんなはずはない。絶対にすごく勉強しているはずだ」と、美織は確信した。
そんな風に余裕を持って答えているその陰で、すごく努力をしているのが伝わってきたのだ。
それからはさらに睡眠時間を4時間に減らして、必死で100点を目指して勉強し、徐々に100点が取れるようになっていった。
「救急看護」や「緊急脱出」の訓練では、「つなぎ」のようなカバーオールを着て、
実際に飛行機に行って、「実機見学」し、さらにモックアップと呼ばれる飛行機の模型(と言っても本物とほぼ同じ)で「逃げて!!」「飛んで!!」と普段の言葉遣いと女性らしさからは考えられない。
命令を、大声で言うのには、びっくりした。
お手本を見せる教官たちの表情が、真剣そのもので、誰もが「やるしかない」という気持ちにさせられた。
本物の機内にある消化器を使って、火を消す訓練をした時には、
「あれ、私って自衛官?警察官?」と、なんの訓練かわからなくなるくらいだった。
さらに、「モックアップ」という、飛行機内の模型のような場所での、サービス
トレーニングで、残っていた美織の自信は全て崩れ去った。
一応頭には、仕事の流れが入っている。
ただ流れに沿ってやっていても、お客様役である同期の胸元に「お年寄り」
「お子様づれ」「妊婦」などと、特別なお客様である札を見て、動揺し、
そのお客様から「乗り継ぎは間に合うのかしら」「子供のおむつを替えたいのだけど」などと質問をされると、もう全ての暗記していたことが吹っ飛ぶ。
「私はこんなにも不器用な人間だったのか」
と、一発合格で得ていた美織の自信の残り半分が、見事に砕け散った。
「ねえ、ちょっとお茶して帰ろう」
同期25人の中で、自然と仲良くなった5人のうちの一人、涼子が言った。
「うん、そうだね。明日は休みだから、今日くらいいいよね」
と美織は答える。
他の夏菜、詩織、茉莉花も、一緒に自宅を通り過ぎて品川までやってきた。
「教官から怒られたわ」
茉莉花が言う。
茉莉花はショートカットで、身長も高く、かっこいい女の子だ。
ハキハキしていて、成績もいい。
でも、「仕事が雑だ」と怒られたらしい。
「だってさ、早くしないといけないって思ったら、どうしても一人一人に丁寧に
カップなんて渡せないよ」
「そうそう、絶対無理ってことを言われるよね」
みんな同じ気持ちだ。
「私は、もっともっと注意されてるよ。みんなは覚えるの早いけど、私は家に帰って何回も何回も復習してる。接客用語って難しいし、すぐに言葉は出てこないから、
誰も座ってない椅子に向かって、「お客様、恐れ入りますが・・・」とか言って
るんだよ」
美織は何も隠さず、自分のダメさ加減を仲良し同期に伝える。
「でも、みんなも悩んでるし、それでも頑張ってるんだってわかると、
私も頑張れる。そしてこの金曜日のお茶の時間が、何より楽しみ」
と、涼子がまとめる。
「ほんと、ほんと」
元気で明るい夏菜が言う。
「みんなで絶対に合格して、CAになろうね」
癒し系の詩織が言うと、みんなうっすら涙を浮かべてる。
「何、泣いてんのー。まだ泣くところじゃないよ。合格して泣こうよ」
と、リーダータイプの涼子が言う。
今日も美味しいコーヒーと、パンケーキや、ショートケーキを食べて、元気をもらって帰宅した。
美織には、今日の復習が待っている。
つづく
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