しらゆき姫 題材 りんご

 私の母親は、私が五歳の時に死んだ。

 10歳になり、父親の浩二が新しい母親を連れてきた。

 真城ましろりょうという人だ。父親との出会いは仕事だったらしい。

「真城良です。よろしくね。子ちゃん」

 上手くやれそうだと思った。けれど。それは私の見立てが甘かったようだ。

 真城は私に対して、すごく厳しかった。というより目の敵にしているようにも思えてきてしまった。

「箸の持ち方ひどい。治して、こうだよ」

「マナーがちゃんと出来るようにならないといけないよ」

「ほら、だめ」

 正確にはマナーを身につけてほしくて、指摘しているらしい。けれど、私にはそれがうざく思えてきてしまった。

挨拶あいさつしてくれたら、返す。これをしないといけないよ」

「はいはい」

「返事がふざけていない?」

 私は真城がうざく思えてきて相手したくなくなる。私のためなのだろうけれど、父親が如何に放任してくれていたのかと実感した。

 私は真城と一緒にいたくなく、外に出た。

 家の外に出ると、針田はりたが「こんにちは」と軽くおじぎをしながら挨拶をしてきた。私はそれに挨拶を返す。

「こんにちは」

「いつも元気だね」

 私の挨拶に針田が喜んでくれた。なんで喜んでいるのだろうかと思った。

 私は公園に向かう。公園には同級生の折田おりたが一人でサッカーボールを蹴っていた。

「折田くん。遊ぼう」

「おう」

 折田に声を掛けると、返事をしてくれた。私は少しだけ嬉しくなる。

 先ほどの真城とのやり取りのさが少し晴れた気がした。サッカーボールを蹴りながら折田が喋る。

「お前の家、新しい母さん来てって聞いたけど」

「うん。そうだよ」

「どうなんだ?」

「口うるさい感じ」

「へぇ。合わないの?」

「うーん」

 私は折田の質問にはっきりと返事をしなかった。「合わない」わけではないとは思う。

 口うるさい、目の敵にされたという感覚は私の一方的な被害ひがい妄想もうそうかもしれないからだ。

「あのさ。もし。嫌いなら俺が殺してやろうか」

「え?」

「だから。殺してやろうか?」

「何を言っているの?」

 折田のことは以前から、変わっていると思っていた。「殺す」って人の命を奪うということだろう。極端すぎて、私は驚く。

「殺すって。人殺しはだめじゃん」

「俺らって10歳じゃん。だから少年院で済むし、なんなら」

 私は折田が恐くなり、ボールを返す。折田の言っていることが有り得なさすぎる。

「ごめん。帰る」

「いつでも言えよ。俺。るから」

「もう。それはいいから」

 私は折田に背を向けて、自宅に向かう。私は折田が可笑しいと思う。

 未成年だから、少年院で済むし将来、更生こうせいできるとか可笑しすぎる。

 どうしたら、そんな可笑しな考えに行き着くのだろうか。理解したくなかった。

 私が家に帰ると、真城がすぐに居間から出てきた。

「どこに行っていたの?」

「うん。ちょっとね」

「よかった。私を嫌いになって家出かと」

「そんなこと」

「実はちょっと厳しすぎたかなって思って」

「そんなことないよ。真城さんは私のためを思って」

 真城は私を抱きしめた。私のためにやっていたのが、伝わってくる。真城が私から身体を離す。

「そうだ。りんごいたから、一緒に食べよう」

「ありがとうございます」

 私が居間の椅子に座ると、真城がテーブルにりんごを出す。りんごは綺麗にかれているが、種がついたままだった。

「これ。種とらなくていいんですか?」

「りんごはね、万病まんびょうに効くからね。どうぞ。種も食べるといいよ」

 私はりんごを口に入れる。ふと、りんごの種を食べるのは良くないという情報を思い出した。けれど、それは本当の情報なのだろうか。

 私は一応、種を吐き出す。

「姫美子ちゃん。出されたものはちゃんと食べないと。りんごの種もね」

「え?」

「だから。りんごの種も食べないと駄目だよ」

 真城の表情が恐く思えた。りんごの種は確か、毒だったと思う。

 本当かは解らないが、何かの情報で見たのは確かだ。

 私ははっきりと「毒」という情報だけ思い出した。

 うろ覚えだが、種にシアン水素すいそがあり、それが毒だったと思う。

 真城は私を殺したいのだろうか。私は恐くなり、椅子から飛び降り居間から出た。

了 45:13

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