東西南北  題材 方向

 俺は探偵のミライだ。今日、事件があった。

 OL殺人事件資料と現場写真をもらった。殺害されたのは北川きたがわレイコ。世田谷せたがやのオフィスで働く、29歳の女性だ。彼女は死に際に「十字」と「反」と書いたダイイングメッセージを残していた。

 北川レイコの周囲の評判はかなり悪く、その所為せいで恨まれても仕方ない空気だったらしい。

 いくら性格が悪くて、難があっても殺人は正当化せいとうか出来ない。

 すでに三人の容疑者候補が見つかったらしい。

 一人目は東山ひがしやまリョウコ。被害者の北川とは同級生からのくさえんで被害者の性格がキツイため、東山がいつも気を遣っていたらしい。

 二人目は南川みなみかわショウコ。被害者とは友達関係であったものの、交際男性のことでトラブルになったらしい。被害者が南川の彼氏を略奪したなどのようだ。

 三人目は西山にしやまキミコ。被害者とはビジネスのことでトラブルになったらしい。

 被害者が直前になって取引をキャンセルして、そこから関係がかなり悪くなったしい。どの人ももっともらしい動機がある。俺はどの人が真犯人なのか、推理を巡らす。

 ”被害者が残した「十字」はどういう意味があるのか”

 俺が机の上で、推理をしていると助手のキナがやってきた。

「ミライさん。犯人、わかりました?」

「うーん」

 キナは俺の持っていたダイイングメッセージの画像を覗き込む。キナはその画像を見て、明らかに変な顔をする。

「なんですか?これ」

「被害者が残したものだよ」

「被害者って、北川がってことですか?」

「北川レイコが残したダイイングメッセージだ。犯人候補は東山リョウコ、南川ショウコ、西山キミコだ」

「東西南北。ですね」

 助手のキナは大爆笑している。確かに東西南北だが、大爆笑するのも違う気がした。非常識に思えて、俺は咳をする。

 俺が今思ったのは、「十字」で「反」と書かれているということは、北川の「北」の反対側、つまり東西南北の「十字」の「北」の反対が「南」。

 だから、南川ショウコじゃないかと思っている。でも、それはそれで至極単純だ。

 決定的なそれを言おうか迷っていると、キナが口を開く。

「東西南北の十字の反対って。それって被害者の北川の北の反対側じゃないですか?だから南。南川ショウコじゃないですか?」

「そんなの解っている。今さっき言おうとしていたんだよ」

「そうですかぁ」

 キナの嫌なところは助手のくせに結構、俺を馬鹿にしているように見えるときがある。キナはそんなつもりがないのだろうけれど。

「でも、それだと単純だろう。何か他の手がかりと決定的なものがないとダメ」

「それも。そうですね」

「ダイイングメッセージがそうだからってとは限らないだろう」

「ですよね。じゃあ、犯人自身もそれに気づいてもみ消しますよね」

「だな」

 俺は再び、犯人候補たちの情報を見る。誰が犯人か。しばらくすると、探偵事務所の電話がなる。

「出てくれ」

「はい」 

 キナが電話に出る。何を話しているかはわからないが。キナの反応からして、事件のことだろう。

 電話を終えて俺のほうを見る。

「もう、犯人がわかったそうです」

「え?」

「犯人は西山キミコだそうです。自首したそうです」

「マジで?!」

「はい。ダイイングメッセージは西山が書いたらしいです」

「ダイイングメッセージが必ずしも被害者が残したわけでないって思わないとだな」

 俺は早とちりしなくてよかったと思った。けれど。探偵としての推理力がまだまだ足りないと自覚した。

了 47:34 方向

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