ネットの友だち 題材 薬

 私はネットゲーム「パズルドライブ」のサイトで、「ナトリ」と名乗る人と友達になった。

 ナトリさんはパズルドライブに詳しく、そのゲームの大会で優勝したこともあるらしい。

 今日はナトリさんとのチャットルームで話しながらパズルドライブのゲームをしていた。

『ナトリさん、こんにちは』

『こんにちはキミさん』

『ナトリさん。第二ステージのラスボスの倒し方って解ります?』

『えっと。そこはね。ラスボスの前の迷路でアイテムを取っておけば楽勝だよ』

 ナトリさんに言われた通りにやる。

 ナトリさんは損得そんとく勘定かんじょうなしにいつも、教えてくれる。

そのお陰でゲームのランクが上がった。

 それは喜ばしいことだ。けれど、私には悩みがある。

『ナトリさん。ありがとう。クリアできた』

『よかったね。あと。聞きたいことある?』

『そういえば、ナトリさんの仕事って何ですか?』

 ナトリさんからの返信が途絶える。

 いきなり職業のことを聞くのは失礼だったかもしれない。

 よく考えたらネットだけのやり取りの人に聞くのは間違いかもしれない。

『ごめん。遅れて。少し前までうつで。今は派遣で事務の仕事しています』

うつ」という言葉が出てきて、私は思わず動揺する。

 私は会社から「うつ」の疑惑を掛けられて、休職させられた。

 病院に通い、薬をもらえと言われた。

 けれど。病院に行く気が起きない。

『それは大変でしたね。どうやって直したんですか?』

『最初は病院に掛かって抗うつ剤を貰って。それが合わなくてやめて。カウンセリングに変えたの』

『抗うつ剤とかを急にやめて反動とかないんですか?』

『多少あったけど。すぐ止めからそれほど。カウンセリングと行動こうどう認知にんち療法りょうほうで薬なしで対処したよ』

うつ」のことは全く解らない。

 けれど、私は「うつ」が改善の見込みがあるものだ思えて、気が楽になった。

『そうなんですね。実は私、今休職中で』

『え?そうなの?大丈夫?』

『はい。それも会社側から「うつ」の疑惑をかけられまして。精神科で薬をもらってこいと』

『え?それは専門医の診断じゃなくて会社の人たちが言ってるんだ。なら、カウンセリングのがいいよ。薬の効果はあるけど。使うってことは副作用も出るからね』

 確かに薬には副作用がある。それを受け取るのは患者だ。

『そうですよね。素人が口出すなといいますが。副作用受け取るのは患者だし。その責任を医者がとるこなんてないですしね』

『そうそう。あ。そうだ。お勧めのカウンセリングを後でメールしとくね』

『ありがとうございます!』

『いえいえ。薬が全部、悪だなんて思わないけど。無責任に薬が万能って思うのも違うよね』

 私はナトリさんと知り合えて、本当に良かったと思った。

 顔も知らない、性別しか知らない。

 ネット上でのやり取り。ナトリさんの親切心が身にしみた。

『本当にありがとうございます』

『いや、私の意見を押し付けまくっていないか少し心配になったけど。キミさんの好きなようにしたほうがいいからね』

『そんな押し付けてるなんて。私は気が楽になりましたよ。感謝です』

『そっか?よかった!』

『はい。ではこの辺でー!』

 私はナトリさんとのチャットを終えた。

 少ししてから、私のメールにナトリさんからの「おすすめのカウンセリング」が着た。

 私は明日、行ってみようと思った。

了 35:42


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