とあるサッカー部 題材 負け

 俺は万年まんねん、サッカー部で補欠だ。理由は単純に「才能がない」からだ。俺自身も理解しているし、それを解っているからだ。

 努力もしなくなった。最近は放課後の練習の時だけ参加して、自主練などはやらなくなった。

「出来ない」「才能ない」。それを自覚したらやる気がなくなった。練習試合が今度あるらしい。

 二週間後の日曜日。11/26だ。

東山ひがしやま高等こうとう学校と今度、練習試合をすることになった。レギュラーメンバーも、補欠メンバーも各自、気合い入れて練習しろよ。いいな」

 コーチの高田たかだ祐介ゆうすけが力強く言った。

「はい」

 皆が元気に返事をする。俺は面倒になった。補欠も頑張らないといけないなんて、意味があるように思えない。

 補欠が活躍することなんて、ほぼないのに。

 この一年間、補欠の出番がくることなんてなかった。

 レギュラーメンバーがヘマすることが無かったし、体調不良者もほぼいない。

「かったりー」と俺が呟くと、エースの広中ひろなか浩三こうぞうが俺を睨む。

「なんだよ」

「せっかくサッカーやってるのになんで、お前は頑張らない?」

「そんなの俺の勝手だろう」

「……そうだな。お前の言うとおりだ」

 広中は俺に喧嘩を売った割にはあっさりと下がった。

 まあ。喧嘩沙汰を起こしたらそれこそ、部活動は停止するからだろう。

 少しだけ面白くない。以前はうざいくらいに絡んできたのに。

 今日の放課後練習が終わり、俺はさっさと帰る。俺が帰り道、他の生徒が広中の噂をしているのを耳にする。

「広中君。本当に努力すごいよね」

「うん。サッカーの試合。いつも見てるらしいよ。自分の動きも研究したり、本当にサッカー選手になりそうだよね」

 俺は面白くなくて、唾を吐く。俺は噂をしていた二人組を追い抜いて歩く。

 努力をして報われるものなら、やるだろう。努力しても上手くいかない、報われないなら何の意味があるのか。

 次の日。コーチの高田が体調不良になり、放課後の練習は休みになった。

 俺はラッキーと思いながら、帰る支度をする。肯定をふいに見ると広中と沢田光がゴール前にいた。

 ドリブルの練習をしているらしい。それを互いに見せ合って、改善点を話逢っている。

 放課後の練習が休みでも自主練を欠かさない。俺はだから、広中も、沢田もレギュラーなのだろうと思った。

 努力しても報われる奴らはいい。俺にはそれがないと思う。

 俺は後者を出て行く。広中、沢田を横切ろうとした時だ。

「お前。部活やめろ。目障り」

 広中が俺に向かって言ってきた。俺は目頭が熱くなり、声を荒げる。

「うるせぇ。黙れ」

「やる気のない奴、いらない。それも努力もしない。皆の士気が下がる。だから、辞めろ」

「おまえにそんな権限ないだろう!」

 俺はいつの間にか、広中の胸ぐらを掴んでいた。

 慌てて、沢田が止めに入る。沢田が止めなかったら俺は、広中を殴っていたと思う。

「やめろよ」

「お前らみたいに努力して上手くなる奴らはいいよな。俺にそれはない、だからやらない。時間のムダだから」

「じゃあ。サッカー辞めろ」

 広中は俺の手を祓う。広中がにらみつけてきた。

 俺は広中の言うとおりだと思った。ムダだと思うならサッカー自体を辞めるべきだ。

 けれど、辞めるということが想像できなかった。サッカーが好きだからだ。

 俺は咄嗟に口を開く。

「やめたくない」

 俺は感極まり涙が溢れてくる。広中が俺を見る。

 俺は見られないように顔を背けた。きっと広中は俺を見て情けなくカッコ悪いやつだと思っただろう。努力する気もない。けれど、サッカーを辞める気もない。矛盾している。

「お前に俺がサッカーを教えてやるよ」

「は?」

「だって。努力の仕方が解らないのだろう」

「……意味不明」

「いいや。お前のが意味不明だって。努力する気もない、努力してもムダ、それって練習の仕方が解らないってことだろう?」

 広中の言うとおりだ。俺は努力の仕方が悪いということだろう。図星だ。何をやっても上達しない。それはやり方が悪いからだろう。

「なんだよ。それ」

「俺にまかせろ」

 広中の表情がやけに爽やかで俺はいつの間にか笑えてきた。広中は俺が笑っていることに疑問を感じ少し睨む。

「何笑っているんだよ。今から練習するぞ」

「やるとは言っていない」

「は?今の流れならやるだろうが!」

「仕方ねぇな、やるわ」

「上から目線かよ」

「しっかり教えてくれよ」

 俺はこの時、やっと煮え切らない自分自身を肯定出来る気がした。

 夕暮れの空がやけに輝いているように感じた。

了 49:18 題材「負け」



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