魔術師 題材 迷信

 その昔。今から1000年くらい前に日本にはじゅつがいたらしい。魔術師は政府からの依頼いらいで邪魔な人を消(殺したり)したり、人を呪ったりしていたらしい。

 魔術を使えるけいは本当に少ない。けれど、その威力いりょくは壮大なものだった。

 いつしか政府は魔術師へのきょうを感じるようになった。

 魔術師のとうばつだ。そのことから、魔術師は滅んだとされる。

 わい麗子れいこは魔術師を探していた。河合には呪ってほしい人たちがいる。

 それは元カレのりゅうみきと、現在の彼女のだ。

 河合は竜から二股を掛けられていたのだった。河合は、竜から「お前みたいな婚期の遅れたオバハン、誰が相手するかよ」と暴言を吐かれ振られた。

 彼女は思い出すだけで腹立たしくなった。怒りの感情を抑えながら、ネットに記述されていた魔術師がいるとされる森に着く。

 ネットの噂では"本当に魔術師に会いたい"と願った人だけに、その不思議な魔術師の家の扉に出会えるらしい。河合は内心で大雑把すぎて、ほぼ迷信に少しだけ呆れていた。

 けれど。河合は魔術師なら、憎らしい二人に合法的に罰を与えられるかもしれないと思った。

 河合は自身で呪いを掛けるより、魔術師のほうがいいと思った。その理由は魔術師のほうが強力だと思ったからだ。

 さっそく河合は目をつむり、魔術師に会いたいと強く願う。数秒が経過しても家の扉が現れる気配がない。

「やっぱ迷信か」と河合が呟き、ため息をつく。すると、声がした。

「何か。探しているのですか?」

 河合は声がしたほうを見る。真っ白なブラウスに真っ黒な長い髪の女性が立っていた。

 女性は神秘的な要素を兼ね備えながらもこの世のものと思えない不自然さがあった。

「いや。あの人を探していて」

「人?こんな山奥にですか?おかしな人ですね」

 女性の言葉に河合は、「あなたも充分に可笑しいです」と思った。けれど、そんな反論をしなかった。

 河合は自身の目的を吐露する気が起きなかった。彼女は”魔術師に会うため”、こんな非現実的な事を言っても可笑しいだろうと思った。女性が再び言葉を発する。

「貴女の思っていること、なんとなく解りました」

「え?」

「よく、そういう人が来るので知っています」

「は?」

 河合は女性の言っていることが、“魔術師”のことだとなんとなく解った。

 あの迷信を信じている人なんて、多くいるのだろうか。河合はにわかに信じ難かった。

「呪いたい人がいる。それも二人。その二人と、恋沙汰ですね、でも、魔術師はダタでやることはないと思います」

 女性は河合の魔術師への依頼をすらすらと話した。

 河合は恐くなり、この女性が魔術師かもしれないと思った。河合は少し震えながら質問する。

「あの。あなたは魔術師ですか?」

「私?私は私です。魔術師は無償で働かない。なので、何かを差し出さないといけないと思います」

 河合は女性が恐くなり、その場を離れたくなった。女性は顔色一つ変えずに河合を見る。河合はこの女性が魔術師だと確信した。

 河合は恐る恐る質問する。

「無償はダメなら。何をするんですか?」

「そうですね。大切なものを一つずつなくすとか」

「大切なもの?たとえば」

「記憶とか。思い出や関係性です。あなた、人に恵まれていますね」

 女性は淡々と話す。その様子は静かで、不気味だった。

 河合は息をのむ。大切な思い出や関係性がなくなる?どういうことだろうか。

「大切な思い出や関係性って」

「ええ。まあ、貴女にとって大切な思い出や関係性です」

「………」

女性は表情を変えない。河合は恐くて震えが強くなる。彼女はどうしたらいいか解らず、黙る。

 大切な思い出や関係性。確かに河合自身には、家族も親友もいる。河合は息を飲む。

「魔術師は魔術を使う。そのための代償が必要です。恐いですか?ならば、止めたほうがいい。あちらに行けば、何も失わずに無事に帰れます」

 女性は行き先を指した。河合は女性の助言に従うことにし、その方向に向かう。

 河合が背を向けた際、女性が再び口を開く。

「もし覚悟が出来たら、ここに来てください。いつでも待っています」

 女性の気配が消えた。河合が振り向くと、そこには誰もいなかった。あの女性が魔術師か確実ではない。河合は森を抜けて、無事に帰宅した。


家に帰り、河合がテレビをつける立てこもりのニュースがやっていた。

立てこもり犯が男女二人を殺害したらしい。電話が鳴り、河合は出る。

「もしもし。そうですけど」

 電話口の相手は元カレの竜の母親からだった。

 竜と彼女の尾野が殺害されたらしい。

 河合は突然の出来事に頭が真っ白になった。何が起きているのだろうか。

 河合は依頼をしなかった。けれど。これは依頼が執行されたのだろうかと彼女は思った。

 河合は自身のスマホを見る。親友の野上のがみ京子きょうこからメッセージが来ていた。

『魔術師に依頼したよ。麗子の無念をはらったよ。私はきっと麗子を忘れると思う。今まで親友になってくれてありがとう』

 河合は言葉を失った。親友の京子が”関係性”を忘れる。

 それは、河合との関係性を亡くすということ。河合は涙が溢れてくる。

 河合は急いで京子に電話を掛ける。ワンコールで京子が出る。

「あの」

『どちらさんですか?』

野上のがみ京子きょうこさんのスマホですか?」

『そうですけど……え?』

 京子は本当に河合との関係性を亡くしたようだ。

 つまり、京子は河合との親友だったことも完全に忘れたらしい。河合は嗚咽する。

『つか。何この人、恐っ』

「あ。すいません。突然。すいません。あの。少しお話できませんか?」

『え?なに?』

「あの。京子さんにすごく助けてもらってその。京子さんは覚えていないので、その話を」

『話??いいけど』

 河合は一から京子との親友関係を築こうと思った。河合は自分のために、やってくれた京子だから絶対にまた親友になれると願った。


了 56:35 題材 迷信

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