受取り方 題材「悪」
派遣で働いてから二ヶ月が経過した。仕事も慣れてきて、同僚の
その上に性格も前向きでこちらまで元気をくれる。
私は彩田が人として大好きだ。けれど、弱点が見当たらないゆえに、彩田をよく思わない、
ある日のことだった。
正社員で上司の
塚田は普段から彩田への態度がキツイ。明らかに彩田を嫌っているオーラを出している。塚田に頼まれた仕事を彩田は
「はい。わかりました」
彩田は塚田の指示通りに会議で使う資料をコピーする。
50ページあり、それも似たようなものばかりが沢山あった。彩田は
それを
塚田の指示では「二部ずつコピー」だったので、彩田は解りやすいように一番上のコピーに
その付箋に「二部ずつコピーしました。ページが似ているので、確認しながらお願いします」と書いた。
塚田はコピーを確認し、ミスがなかったらしく彩田に何も言わなかった。
私が横目で見ていると、塚田は舌打ちをしているように見えた。
彩田がコピーした資料は会議で無事に使われたらしい。寧ろ、会議で評判が良かったと言っている人が居た。
その日の昼食の時間になった。
私と彩田は昼食を食べにいく。その歳に塚田が彩田を呼び止めてきた。
「ちょっと」
「なんですか?」
「コピーのことだけど。ページ抜けていたよ。これね。私が確認したからいいけど」
「あ。はい。すいません。以後、気を付けます」
彩田はすぐに謝罪した。彼女の素直な応対に塚田は黙る。彩田が再び口を開く。
「塚田先輩。ありがとうございます」
彩田が感謝を述べると、塚田はもごもごしながら「あ。わかればいいから」と言いい、去って行った。
その様子を他の人も見ていたのか、彩田に感心しているように見えた。
私自身もその応対に少し驚いた。自分のことを良く思っていないらしい人からの注意は、いくら正しい指摘でも不快に思えてくる。そんな中、「感謝の意」を述べている。中々に出来るものではない。
「
彩田は私に呼びかけて、私は「そうだね」と言いながら、昼食を摂りに行くため会社を一緒に出た。私と彩田は会社から近いカフェに入った。
店員に案内され、向かい合わせで座る。咳につくと私は口を開く。
「彩田さん、すごいね」
「なにが?」
「塚田さん。いつも彩田さんに悪意を向けているじゃん」
「そう?」
彩田は塚田を気にしていないようだ。彼女は水を一口だけ飲む。
私は彩田が結構、気が強いのかもしれないと確信した。彩田は私の顔を見て、話す。
「あのさ。悪意って。それが仮に悪意を持っているものでも、それを受け取るときに“悪意”だと思わなければ”悪意”じゃないよね。本当に塚田先輩が私を嫌っていたとしても、私自身は先輩が嫌いじゃないからさ。別にって感じかな」
私は彩田の価値観に驚いた。確かに向けられたとする”悪意”を正直に受け取らなければそれは、別ものになる。なんだかお釈迦様の教えみたいに思えた。
そう思うのは中々に難しいだろう。けれど、それが出来れば気持は大分、楽になるだろう。
「やっぱ彩田さんはすごいや」
「いいや。全然すごくない。私も昔は悪意を受け取って、それに支配されていた。だから、どんどん病んでいって。だったら、その"悪意"を受け取らなければいいんじゃないかって」
私は彩田の言葉に重みを感じた。
ここまでの精神力を養うのに、彩田には相当な出来事があったように見えた。
完璧そうに見えた人でも、絶対に苦労があるのだろうと私は改めて思った。
了 題材「悪意」
42:27
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