第77話



 素粒子砲搭載衛星の射程距離内に海賊船ルーナ号が向かっている。


「迎撃機、および大型輸送船へ、速やかに着艦を願う」


 通信長レイの指示を聞いて、それぞれの宇宙船が着艦準備を始める。


 そして、ルーナ号の横にはピンク・サファイアに光る海賊船が並行して航行している。


「光る海賊船から、波動通信です」


 レイがクロウに報告する。


「回線を開いてくれ」


「了解、回線、開きました」


「クロウ、久しぶりね」


 喋っているのは女船長のベレニケである。


「ああ、久しぶりだ」


 二人の会話を聞いて、


「おい、知り合いなのかよ?」


 と副長ウイスが首を傾げながら独り言のように言うが。


「ちょっと、黙っていてくれない」


 ベレニケとクロウの二人の会話を聞き漏らさないようにと航海長ダフォーが注意する。


「あなた方の船に危険が迫っていると、私達のマザーが教えてくれた」


「なんて言っていた?」


「ゴディス、それだけ」


「親愛なる母」


「ってことはよ、向こうのコンピュターに乗っているのは俺たちの船のマザー・ルーナの娘ってこと?」


「お願いウイス、黙ってて」


 ダフォーが言った後、再びベレニケが波動回線で伝える、


「クロウ、ルーをありがとう」


「良いんだ、今、君の息子は輸送船で帰って来ている。もうすぐ話ができるだろう」


「ええ! ってことはよ、ベレニケさんはクロウが養子にもらったルーの本当の母親で、その母親も海賊? 海賊の息子が海賊の養子になって、血統書付きってか折り紙付き?」


「ウイス、良い加減にしないと殴るわよ」


「殴るのは任せて、2度と喋れないように顎を砕いてあげる」


 料理長のマギーがウイスを睨みながら言うと、ウイスは椅子から落ちそうになって逃げる準備をする。


「ピナルスで子供達を収容するのね」


「そうだ」


「ロスゴダ星に帰れるまで付き合ってあげましょう。彼らが手出し出来ないように」


「ありがとう。我々もワーム・ホールとやらを通ってみたかったんだ」


 その時、


「済まない、少しだけ教えてほしいことがあります」


「良いでしょう、あなたは誰ですか?」


「私は、この船の科学技術班の班長、アーベイ博士です」


「何が知りたいのですか?」


「ワーム・ホールを人工的に作れた方法を」


「ストレンジレットです。私たちはストレンジレットを自由に扱える」


「それは、ダーク・エネルギーなのでしょうか?」


「ダーク・マターを解明できれば、あなた方もいずれストレンジレットを使えるようになるでしょう」


「もう一つだけ、よろしいでしょうか?」


「どうぞ」


「ピナルスの連中もワーム・ホールを通っていた形跡が見られるのですが?」


「そう、彼らもワーム・ホールを通っていた。しかし、時のトンネルの作り方が違う。彼らは、ヒッグス粒子を使って巨大な重力場を作り、人工の小さなブラック・ホールを用意する。そこにワーム・ホールを出現させて入り口に入っていく」


「だから、双方ともに素粒子変換されずに済む、と言うことでしょうか?」


「間違ってはいません。あなた方もその理論に辿り着ければワーム・ホールを通れるでしょう。よろしいですか?」


「ベレニケ、アーベイの質問に答えてくれてありがとう」


「いいえ、波動回線は一度切りましょう。私達のマザーがあなた方のマザーに話しかけたいと言っている」


「レイ、回線を切ってくれ。ベレニケ、また後で話そう」


 回線が切れて、ダフォーがクロウに尋ねる、


「私達のマザーはルーナ、そして向こうの海賊船のマザーはその娘?」


「そうだ」


「ルーナ号のマザーである女神ルーナの娘っていうことは、あの海賊船も自分達のマザーの名前をそのまま使っているの?」


「彼女達の海賊船名はルーナの娘、カグヤ、だ。そして、あの船の乗組員は船長ベレニケ以外に副長のコノンの二人だけ。二人はルナリアン、月を脱出した最後の生き残りだ」


「ってことはよ、ルーはルナリアンだったのか・・・」


 ウイスの言葉を誰も止めれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る