第36話



 クロウは船長席に座り、先まで隣で立っていた息子に声を掛ける、


「ルー、リーを呼んで来てくれないか」


「分かった」


 そう言ってルーは艦橋を出て行った。


「それと科学技術班の誰かにも来て貰いたいんだが」


「ああ、それなら班長のアーベイが砲台にいるよ。何でも新しい素粒子を使えるようにしたいとか言ってたけどね、俺には何のことだかさっぱりさ」


 クロウに答えて砲術長が答える。


「キスト、無線を使えるのならそれで良いが、駄目なら迎えに行ってくれないか?」


「いいよ、防音用のヘッドホーンしてると思うしね。迎えに行ってくらぁ」


 ある程度の乗組員が揃ったところでクロウが話し出す。


「アーベイ、それとリー、君たちを呼んだ理由がある。まず、アーベイ、私の話に間違いがあるなら指摘して欲しい、また補足するべき部分があれば君に頼みたい。リー、君には精一杯聞いていて欲しいのだが、質問があれば遠慮なく尋ねて欲しい、それがこの艦橋に居る全員のためになると思っている」


 各乗組員が声を出さずに頷いた。


「先ずブラックホールだ。その中心である特異点の中だ」


「それって、ブラックホールの中身ってことだよな?」


 と副長ウイスが訊くが、あなたは黙ってなさい、と言いたげに航海長ダフォーがウイスを睨む。


「そうだ、ブラックホールの中だ」


 そうクロウが答えるとウイスが、ザマァみろ、と言い返したそうにダフォーを見るが、ダフォーは既にウイスから目を逸らしてクロウを見ている。


「話は遡るが、この話の初めは、ロスゴダのばら撒いた通信衛星からが始まりだ」


「そうだ、光よりも早く電波が届くことはない」


 通信長のレイが答える。

クロウは軽く頷くと話を始める。


「電波そのものが単独で時空間移動ができることはない。電波そのものに時空間の扉を開ける力がないからだ。ならば、何故、時空間移動が可能なロスゴダの救命艇より早く無線が届いたのか? 私達が導き出した答えは、ワームホールだった。時のトンネルだ。我々に、この時のトンネルを操る科学力はない、そうだね? アーベイ?」


「ワームホールは基本的にブラックホールの中に存在すると言われている。私達の科学技術班では、理論上の方程式はできているが、それが正しいかどうかは実際にブラックホールの中へ入って実証するしかない」


「理論上でも良い、ブラックホールから抜け出せる手立てはあるんですか? アーベイ博士」


 リーの質問にアーベイが答える、


「それができればブラックホールの中へ突入して、私達の理論を実証してみせるんだがね。ただ、理論上は可能だ。可能だが、その後どうなるかは分からない」


「それはどう言うことですか?」


「タイムトラベルと同じことさ、クォーク粒子を使う。瞬間移動でのクォーク粒子の使用は可能だ。それ以外での使用例はない。要するに素粒子に分解された物質は2度と元に戻れない、って言うことだよ」


 リーは、深く頷いた。

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