第16話



 艦橋には車椅子に乗ったロスゴダ星人が居る。


救命艇から運び出されて、かなりの時が流れていた。


「礼を言わせてもらいたい。ありがとう、クロウ船長」


「まだ寝ていなくても良いのかな?」


「クロノスの医療は素晴らしい」


「それは良かった」


「あらためて自己紹介をしたい。私は戦闘空母艦副長のレゾルト、後ろにいるのは1等航海士のデニス、そしてパイロットのティア少尉だ」


「よくご無事で、他の船員たちは?」


 それなりの事情があるとは分かっていたが、クロウは何気ないように尋ねる。


「みんな、死んだ。ただし、戦死ではない」


「伺おうか」


「総督のジゼルが死んで、砲術長が頭に重傷を負い、乗組員達は戦意を失っていた。それでも艦長だけは戦うつもりでいたようだが、船員達が救命艇を準備しだすと、我先に救命班に乗ろうとしたのも艦長だった」


「レゾルト副長、あなたは、その時、何をしていたんだ」


「副長は独房に入れられていた」


 答えたのはティア少尉であった。


「彼女の言う通りです。私は、あなた方の戦い方を見て、既に勝機なしと見てとった。科学力も我らを上回っていた。この戦いには反対だった」


「それで独房入りということか」


「ええ、総督と艦長に逆らったということです」


「レゾルト副長は、我々からは信頼されていましたが、総督とは合わなかったのです」


 少尉が間に入る。


「艦長は総督の言いなりでしたので、あなた方との戦いの間、レゾルト副長は独房に居ました」


 クロウはティア少尉に頷くと、


「続けてくれたまえ」


「ええ、彼女の言う通り私は独房に閉じ込められていました。あたりが騒がしくなったかと思うと、ティア少尉が独房の鍵を持って来て、鉄格子の扉を開けてくれたのです。私は、その時に総督のジゼルが、あなたの手によって抹殺されたことを知りました」


「なるほど、私は命と引き換えに片腕を失ったがね」


「済みません、余計なことを言ってしまったようだ」


「構わない、続けてくれたまえ」


「救命艇に乗船できる人数は限られていませんでしたが、母星に着くまでの食糧に限りがありました。船員達は、まず艦長を排除しました。殺害したのではありません。艦長なら船と共に沈むのが責任というものであろう、とほぼ全員一致で船にくくりつけられました。そして、食糧分の人数を考え、救命艇2隻に人が乗り、残りの一隻に食糧を積むことになりました。もうお分かりのように1隻分の乗組員が戦闘母艦に残ることになります。残ったのは殆どが志願した者達でした、艦長以外は。そして、光速航行と時空間移動を繰り返し、ロスゴダの位置を確かめながら、ここまで来れました。その間に他の乗組員は食糧不足の為、死を目前にした時、限られた三人、選ばれた私達が生命維持装置に入り、最後の航海に再出発しました」


「君たちが選ばれた理由は?」


 クロウの質問に答えたのは、ティア少尉であった、


「レゾルト副長は、多くの兵士から慕われていました。一等航海士のデニスは通信師長だからです」


「そして君は、この船、最後のパイロット。ということで良いかな?」


「はい」


 ティアは、少し下を向いて答えた。

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