第18話 閨に房事って

 翌日の昼下がり、私はげだるい体を起こした。

 ああ、体が重い。

 このままベッドで一日中寝ていたい。

 だけど、いい加減起きないと。

 前世が社畜だったとはいえ、さすがに最近だらけすぎているもの。


 そんな私とは違いルドは、朝早く私の額にキスを一つ落とし『夕方には戻るからお利口さんにしているように』と出かけていった。


 昨日はあのままルドが気づいて起きるまで、二人でソファーで寝てしまっていたせいで、体がバキバキするわね。


 あの体勢はさすがにダメ過ぎたわ。

 抱きかかえられベッドの入れられたら、すっかりこんな時間まで寝てしまったし。


「アーシエお嬢様、おはようございます」

「おはよう、サラ。ごめんね、起きるのがだいぶ遅くなってしまって」


 きっと朝ご飯の用意もあっただろうに、サラには申し訳ないことをしちゃった。

 昨日の件で少し気が抜けたのか、それとも疲れていたのか。

 意識は時々あったのだけど、どうしても起きれなかったのよね。


「いえいえ。そんなお気遣い申し訳ございません。それよりも、お体は大丈夫ですか、お嬢様」

「うん。よく寝たから大丈夫よ~。全然、もう元気」

「では、まず湯あみをされますか?」


 湯あみ……お風呂ってことよね。

 別に朝風呂派ではないから、夕方でいいんだけどなぁ。

 あ、でも昨日は朝入ったからってことかな。


「んー、私は別に今でも夕方でもいいけど、先に入ってしまったほうがいい感じ?」

「えっと。お体は……その、気持ち悪くはないですか?」

「あー、昨日朝お風呂に入ったからってこと? 確かに24時間経ってるから、入らないとばっちいかなぁ」

「え、あ、んっと?」

「?」


 かみ合わないサラと私の会話。

 なんだろう。私とサラの言いたいことがすごくズレてる気がするのは。

 サラは汚いから私に入れって言ってる風じゃないのよね。

 でも、だとしたらなんだろう。


「あの……その……」

「うん」

「殿下より、お嬢様をだいぶ無理させてしまったとお聞きしたので。その……」

「ルドが、私を無理させたって?」

「はい、そうです。そのようにお出かけになられる際に、殿下よりお聞きいたしております」


 サラはルドから、言付けを預かっていたってことなのね。

 だから私のことを、こんな時間まで起こしにくることはなかった。


 でも無理させたっていうのはどういうことかしら。

 あ、膝枕のことかな。

 確かに変な体勢で、しかもルドの頭を乗せたまま寝ちゃったから体はバキバキで痛いから、無理したって言えば無理したとは思う。


 ただサラの言っているそれとは違う気がするのよね。


「私に無理をさせたって、ルドはどれのこと言ってるんだろう」

「ですので、えっと殿下のおっしゃっていたのは……ねやでの房事ぼうじのことではないのですか?」

「え……」


 閨……房事?

 前世では私には無縁の言葉たちだった。


 え。でも、え。

 もしかしてサラはさっきから、そういうことを言っていたってこと!?

 ああ、でもそうね。

 普通で考えたらおかしくはない状況なんだ。


 一応、婚約者となる同士であり、ルドは私を溺愛している。

 そんな二人が同じ部屋にずっといるんだもの。

 がおこらない方が、普通はおかしいのかもしれない。


 でも、でもよ。

 今まで恋愛をしたことも、恋人がいたこともない私には、そういうの疎いの。

 急に言われても分からないし、急じゃなくてもきっと分からないんだろうなぁ。


 ダメ過ぎるじゃないの、私。

 あー、さすがに自分で言って、悲しくなってきたわ。


「全然、全然違うの! そうじゃないのーーーー。んとね、んと、昨日はルドを膝枕して、それで二人でそのままソファーで寝てしまったの」

「ソファーで、膝枕……ですか」


「そう、そうなの、膝枕なの。だから体がバキバキっていうか、ちょっと変な感じなだけで。だ、だからそんな変な意味じゃなくて……。うーーー。変なコト言わせちゃってごめんね?」

「いえ、わたしの方こそなんか……すみません、お嬢様」

「サラのせいじゃないから。そうじゃないから」


 言ってるそばから、私も支離滅裂だわ。


 顔もきっと赤いと思う。

 ああ、サラにも変に気を遣わせちゃったし。

 私のが年上なのにぃ。

 もっと早く気づけば、サラの口からこんなコト言わせなくても済んだのに。


 うーーーー。


 これも全部ルド様の言い方が悪いのよ。

 もぅ。確かに無理させたかもしれないけど、言い方!

 もっと普通の言い方あったと思うのに。


「もぅ、ルド様の馬鹿……。うん、もう、お風呂入ろうかな……」

「あ、はい。すぐご用意しますね、お嬢様」

「うん。ありがとぅ」


 穴があったら入りたいっていうのは、まさにこのことね。


 恥ずかしさを隠すため、私はそのまま湯あみをすることにした。

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