第3話 確定したヤンデレルート
私が言い終えると、彼はうれしさを隠せないようだった。
その顔を見ると、どうやら私は本気で選択を間違えてしまった気がする。
え、なに。なんなの?
思っていた反応と全然違うんだけど。
最後まで違うと言い続け、罪を認めなかった方が良かったのではないかという不安が急に胸を締め付ける。
「ル……ド…………様?」
あまりの不安から、私は声を絞り出した。
「くっくっくっくっく」
するとルドは下を向き、空いた片方の手で口元を押さえながら盛大に笑い出した。
そして私の首にかけたままだった手を、そのまま私の頬に添える。
その手は柔らかく、先ほどよりは凶悪でないはずなのに、ゾクゾクとした寒気が背中を駆け上がってきた。
いっそ、首に手を添えられていた方がマシってどんな状況なのよ。
「ああ、アーシェ、君の泣き顔は最高だね。しかも、嫉妬に狂うほど僕を愛してくれていたんだね」
なになになになになに。
ちょっと待って、これは本当にどうゆう状況なの?
頭が全く追いつかないんだけど。
私はバットエンド回避に走っていたはずなのに、これ絶対に何かが違うわよね。
明らかな、断罪シーンとしての違和感。
もしかしてこのシュチュエーションをヒロインをいじめた後の断罪シーンだと思い込んだところから、私は間違えてしまった感じ?
えええ。
でもそれって、もしかしなくてもマズイわよね。
「やっぱり牢屋はダメだね。見張りであっても他の者の瞳に君が映るかと思うと、気になって仕事も手に付かないよ」
「ルド様?」
「だから君にピッタリな籠を用意したんだ」
「あの……ルド様?」
「心配しなくても大丈夫だよ、アーシエ」
いえ。全然大丈夫さが伝わってこないんですけど。
むしろ私、ココの方が安全ではないのですか?
ルドは手を一度、私に触れていた引き抜く。
そして手に持っていた鍵で牢屋を開けて、私を拘束させていた腕の鎖も外した。
あああ。見たくない。見たくない。
そう思いながら私は恐る恐る彼を見上げると、ルドのその瞳にはほの暗い光を称えていた。
「ルド様、私は……」
「いいんだよ、アーシェ。やっと僕を愛していると認めてくれたんだから。目一杯、愛して可愛がってあげるよ」
「あの、それは……」
「ん? それは、なんだい?」
その言葉と瞳には、有無を言わせない圧力があった。
最初に、彼と自分を見た目で判断した私がダメだったんだ。今ならそれがはっきりと分かる。
これは……メインルートじゃなくて、絶対にヤンデレルートでしょう。
ある意味、断罪ルートと同じくらいに質の悪いルートに入っちゃったわよね、私。
その上、愛していると言わせるためにわざと追い込んで私が彼と同じ台詞を言った時点で、目標を達成してしまったパターンだ。
断罪シーンでしかないって思い込んでしまっていたから、一番しちゃいけない選択をしちゃったじゃないの。
最悪だわ。ある意味、こっちの方がバッドエンドにさえ思えるし。
数ある乙女ゲームのうち、これがなんなのか全くわからないけど、ヤンデレルートではほぼ高確率で死者が出る。
もし仮に私がヒロインだとしても、全然安全ではない。
そこまで考えて、背筋に冷たいものが走った。
この先の物語など、想像もしたくない。
神様の馬鹿とか心の中で思って、申し訳ありません……。
いや、転移先がヤンデレルートな時点で、謝る必要もないのかしら。
「ルド様、あの」
「大丈夫だよ。君の話はちゃんとあとでゆーっくり、いくらでも聞いてあげるからね」
「そうではなくて」
「怯えなくていいんだよ、アーシェ。誰も邪魔されないところに入れてあげよう。君の気が二度と他に向かないように。愛しているよ、アーシェ」
ルドが私の体を抱き上げた。
冷えきった体はいうことを聞かず、身動き一つすることは出来ない。
ランプの明かりはゆらゆらと揺れ、心もとなく足元を照らすだけだった。
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