蒼い鳥
喜島 塔
第1章「或る女」
或る一人の女が、独りで生きていました。女には、親兄弟、親戚もおらず、恋人、友達も居ませんでした……と、女は思い込んでいました。女は、心の病気に罹っていて、妄想と現実の世界の区別がつかなくなっていたのです。女は、「幸せになりたい」と、いつも、心の底から願っていました。その想いは、あまりにも強すぎて、病的とさえ思われるものでした。
女は、町の女たちの話を盗み聞きし、どんな不幸な人にも幸運をもたらしてくれるという「蒼い鳥」の存在を知りました。その鳥は、法外な値段で闇市場に出回っているとのことでした。女は、如何にも胡散臭そうな男から、今まで、せっせと蓄えていた貯金全部をはたいて、「蒼い鳥」を手に入れました。
女は、持っていたお金を全部使ってしまったので、借家を追い出されました。
「でも、これで幸せになれるんだわ」
と自分に言い聞かせ、「憐れみの森」と呼ばれている森の中に、「蒼い鳥」と一緒に暮らすことにしました。女には、「蒼い鳥」以外、何もなくなってしまったけれど、「これで幸せになれる」と思うだけで、穏やかな気持ちでいることができました。
こうして、一ヶ月が過ぎ……三ヶ月が過ぎ……寒い寒い冬がやってきました。女は、それまで、森の木の実やら、果実を食べて、なんとか飢えを凌いできたのですが、冬になって、蓄えていた食糧も残り僅かとなってしまいました。「蒼い鳥」に死なれてしまっては元も子もないので、女は、僅かしかない食糧を「蒼い鳥」に与え、自分は湖から汲んで来た飲み水だけで命を繋いでいたのですが、その湖も凍結し、飢餓による“死”への恐怖は、女の心を焦らせました。
「いったい、いつになったら、私は幸せになれるんだろう?」
もしかしたら、自分は騙されたのかもしれない……という不安が何度も頭を過ぎる度、女は、「そんなこと、ある筈がない!」と、強く否定し、もう少し辛抱すれば、きっと、この町の……いいえ、この世界の女たちの誰よりも幸せになれる! と信じ続けました。
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