龍王の花嫁探し

翠雨

第1話

 ここは、黒龍が人に化けて興したといわれる龍王国。

 黒龍の血を受け継いだ歴代の王により、長い間、繁栄と安寧を誇ってきた。その血は脈々と受け継がれ、現国王も黒龍の力を受け継いでいる。


 王都の商店街の、ある一角。


 麗しい乙女達が列をなしている。

 美しい着物に身を包み、髪をきれいに結い上げて、赤い紅を差した女達。年の頃は、成人前後。みな、自分が一番きれいだと誇らしげな顔で、自分の番が来るのを待っていた。


 彼女達は、我こそは皇太子妃であると駆けつけた女性達だ。


 王国全体に、皇太子が妃を探していると伝達が出されたのは二月ふたつき前。

 未だに妃は見つからないらしい。


 妃の資格があるものは、その身に黒龍の刻印をもつ。

 過去には数人の妃を囲んでいた国王もいて、その印を持つものは国に数人いるとされている。


(皇太子様も大変ね)

 見たこともない相手と、結婚を決められているなんて。


(集まった女性も、物好きね)

 いくら相手が皇太子様とはいえ、会ったこともない人との結婚を望むなんて。しかも皇太子妃なんて重圧、絶対に願い下げだ。


 そんなことを考えているのが伝わってしまったのか、アイシャは、有無を言わせず押し付けられるような形で、を受け取った。


 黒龍のような艶めく黒髪に金色の瞳をもつ、皇太子の麗しい絵姿が中央に描かれたものだ。

 黒龍に選ばれた証である竜の紋様が、体のどこかにある女性を探している。

 竜の紋様のある女性は届け出てほしいと、届け出場所の地図が乗っていた。


(こんな近くでを配る意味があるのか?)

 届け出場所はすぐ近く。毎日のように並んでいる女性達を見ているのだ。


(あれだけ沢山の女性が駆けつけているのだし、一人くらい見つからないのかしら?)


 まだ探しているということは、女性達が竜の紋様と主張するものが、本物ではないということだ。




 アイシャは、を店の奥の棚に伏せて置いた。


 持って帰ってきた仕事道具をきれい手入れすると、店の扉を閉めしっかりと鍵を掛ける。


 全てを覆い隠すように、夜の帳が降り始めていた。


 窓も閉めて、どこも開いていないことを確認すると、湯浴みのためにお湯を沸かす。


 スルスルと着物を脱ぎ捨てて、細くて白い四肢が露になると、右太ももの少し内側。

 そこに、はっきりと竜とわかる、黒いアザがあった。


 一年ほど前に浮かび上がってきた、親すら存在を知らないアザだ。


 アイシャは、これを誰にも見せるつもりはない。



 万が一、竜の紋様だった場合、自分がどうなってしまうのか、とんでもなく恐ろしかった。


 紋様なんかに自分の人生を決められてしまうなんて。


 このまま王都に暮らしていては、いつかは見つかってしまうかもしれない。


 しかし、せっかく作り上げた自分の店を捨てるなど、それですら、紋様に人生を決められているのと同じだ。


 湯を浴びると、すぐさまに着物を羽織る。

 まっさらな着物に包まれて、「ふぅ」と息を吐いた。

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龍王の花嫁探し 翠雨 @suiu11

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