龍王の花嫁探し
翠雨
第1話
ここは、黒龍が人に化けて興したといわれる龍王国。
黒龍の血を受け継いだ歴代の王により、長い間、繁栄と安寧を誇ってきた。その血は脈々と受け継がれ、現国王も黒龍の力を受け継いでいる。
王都の商店街の、ある一角。
麗しい乙女達が列をなしている。
美しい着物に身を包み、髪をきれいに結い上げて、赤い紅を差した女達。年の頃は、成人前後。
彼女達は、我こそは皇太子妃であると駆けつけた女性達だ。
王国全体に、皇太子が妃を探していると伝達が出されたのは
未だに妃は見つからないらしい。
妃の資格があるものは、その身に黒龍の刻印をもつ。
過去には数人の妃を囲んでいた国王もいて、その印を持つものは国に数人いるとされている。
(皇太子様も大変ね)
見たこともない相手と、結婚を決められているなんて。
(集まった女性も、物好きね)
いくら相手が皇太子様とはいえ、会ったこともない人との結婚を望むなんて。しかも皇太子妃なんて重圧、絶対に願い下げだ。
そんなことを考えているのが伝わってしまったのか、アイシャは、有無を言わせず押し付けられるような形で、びらを受け取った。
黒龍のような艶めく黒髪に金色の瞳をもつ、皇太子の麗しい絵姿が中央に描かれたものだ。
黒龍に選ばれた証である竜の紋様が、体のどこかにある女性を探している。
竜の紋様のある女性は届け出てほしいと、届け出場所の地図が乗っていた。
(こんな近くでびらを配る意味があるのか?)
届け出場所はすぐ近く。毎日のように並んでいる女性達を見ているのだ。
(あれだけ沢山の女性が駆けつけているのだし、一人くらい見つからないのかしら?)
まだ探しているということは、女性達が竜の紋様と主張するものが、本物ではないということだ。
アイシャは、びらを店の奥の棚に伏せて置いた。
持って帰ってきた仕事道具をきれい手入れすると、店の扉を閉めしっかりと鍵を掛ける。
全てを覆い隠すように、夜の帳が降り始めていた。
窓も閉めて、どこも開いていないことを確認すると、湯浴みのためにお湯を沸かす。
スルスルと着物を脱ぎ捨てて、細くて白い四肢が露になると、右太ももの少し内側。
そこに、はっきりと竜とわかる、黒いアザがあった。
一年ほど前に浮かび上がってきた、親すら存在を知らないアザだ。
アイシャは、これを誰にも見せるつもりはない。
万が一、竜の紋様だった場合、自分がどうなってしまうのか、とんでもなく恐ろしかった。
紋様なんかに自分の人生を決められてしまうなんて。
このまま王都に暮らしていては、いつかは見つかってしまうかもしれない。
しかし、せっかく作り上げた自分の店を捨てるなど、それですら、紋様に人生を決められているのと同じだ。
湯を浴びると、すぐさまに着物を羽織る。
まっさらな着物に包まれて、「ふぅ」と息を吐いた。
龍王の花嫁探し 翠雨 @suiu11
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