幼少期から仕込まれた性癖の歪みはもう戻らないよね

 脳みその垂れ流し(╹◡╹)


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 ところでだが、私はママ様からミルクを貰うのが好きである。バブみを感じておぎゃっているとか、幼児プレイを楽しんでいるとか、そういう理由ではなく、単純に命を分けてもらっている感じが好きなのだ。一つの命が、人ひとりの命が、私という未完成なもののために使われている感覚。ママ様の時間が、命が、私を作り上げるために消費されている事実。


 それが、たまらなく愛おしいのだ。誰のものでもない人の命を食い物にしている背徳感。こんな私に命を使いながら、幸せそうに微笑む姿を見る罪悪感。本来その愛を受けるはずだった、無垢な命ではなく私がそれを独占しているのだという優越感。そういう良くない感情が混ざって、仄暗く甘美な疼きを感じるその時が、私は大好きだった。ただのおぎゃリストだった方が100倍ましな理由だな。


 と、突然そんな性癖を暴露したのは、只今絶賛授乳中……だからではなく、未だに卒乳できない甘ったれが目の前にいるからである。私?私はもう、1歳になる前にやめたよ。ママ様はちょっと寂しそうにしていたけれど、早く一人でご飯食べれるようになりたいからね。将来的に、ママ様に負担をかけ続けるのは本意ではない。


 そんなふうに、鋼の意思で自らを律した私とは異なり、自制心のじの字もないナチュラルボーン赤ちゃんはまだまだ母乳が大好きである。まあ普通に考えて、生まれた時から飲んできたものなんだからそんな簡単にやめたりできないよね。しらんけど。


 とはいえ、目の前の赤ちゃん……いや、もうそろそろ三歳になるのだから、幼児と言った方が正確だな。目の前の幼児ことお隣さんとこの智洋くんはまだまだ卒乳が遠いみたいで、お隣ママが困っていると聞いた。


「ひろちゃ、あげる!」


 というわけで、不詳私が一肌脱いで差し上げよう。と、智洋くんにお菓子を食べさせることにしたのだ。目の前で私がにこにこしながら食べていたお菓子を渡されたら、好奇心のある子供ならきっと食いつくだろう。


 そう思って分けてあげたのだが、智洋くんは臆病なのか、私の渡したお菓子を食べようとはしなかった。考えてみれば、好奇心旺盛な子供であれば、私が渡すよりも先に欲しいと意思表示をするだろう。そうでなかったということは彼は好奇心に乏しい子供であり、私の行動は的外れだったということだ。いっけなーい、光ちゃんったらうっかりさん。


 自分の作戦の失敗を知り、その妥当性まで理解した私は、仕方がないので無理やり食わせることにした。目標を達成すれば問題は全て解決するものであり、私の目的は智洋くんに食の悦びを知らせることである。嫌がる子供に無理やり物を食べさせるとか、真っ当な大人であれば先ずやることのない行いだが、あいにく私は幼児である。仮に智洋君が泣いてしまったとしても、大人は対して気にしないだろう。



 そこまで考えている汚い幼児こと私は、ソフトな食感のおせんべいを智洋くんの口に突っ込む。これまでママのミルクしか飲んでこなかったべべちゃんには少しばかり大人な味かもしれないが、突っ込まれたのがパパのミルクでなかったのだからまだ救いはあるだろう。大人の中でも子供の味だね。そんな思考が頭をよぎりはしたものの、うちのパパ上は当然そんな外道ではない。つまり私は、よくわからない屁理屈もどきで用事の口に固形物を突っ込んだことを正当化しているわけだな。下衆がよ。



 突然異物を突っ込まれたことにびっくりして泣いてしまった智洋くんの声を聞いて、ママ様とお隣ママさんがこちらを見る。とても若いママ様と年が近かったお隣ママはすっかり意気投合して、しょっちゅうお茶会をする仲になっていたのだ。


 お茶会が楽しいとはいえ幼児から目を離すのは賛否が否に偏りそうな状況であるが、そこは私のせいである。転生者の高い倫理観によって、性悪説信者でも性善説を信じたくなるくらい善良かつ理想的に振舞ってきた私。心配をかけるようなことは何もせず、智洋くんのことを見守って何かあれば真っ先に止めて居た私。お母さんズよりも先に全てを解決する幼児によって、智洋くんの安全は保証されていたのである。そりゃあママたちもついつい気が緩んでしまうというものだ。


 ともあれ、こちらに意識を向けたママ様たちが目にしたのは、おやつを幼児の口にねじ込む私。信用しきっていた私の蛮行に、2人はおめめを白黒させていた。ママ様かわいいよ。お隣ママも、ママ様ほどじゃないけどかわいいね。


 もし私が軟派な成人男性なら間違いなく口説いていたであろう様子の二人が、すこし時間を置いてから私を止める。もちろん私は硬派な幼児なので間違ってもママ様たちを口説いたりしないし、止められたら素直にやめる。


 泣き続ける智洋くんと、ひろちゃんにもおいしいのわけてあげたくて……と幼児面する私。これまでの行いの良さによって、すんなり信じてもらうことが出来たその言葉は、お隣ママの何かを刺激してしまったのか、智洋くんはその軟弱さを怒られることになった。いや、私と比較するのはよくないと思うのだけどね。



 そんな経緯で、智洋くんは卒乳が決まった。私のせいである。言い訳のしようがないほど私のせいである。あーあ、大好きなお母さんにおっぱい禁止って言われて泣いちゃった。可哀想だね。どうして子供の泣き声はこんなに胸に響くのだろうな。


 だいじょうぶ、ごはんおいしいよ!とフォローにならないフォローを入れて、追い打ちをかけつつ、その泣き声を楽しんでいるのはバレないように振る舞う。自分の異常性を隠すのは、一端の異常者としては当然の行いだからね。隠そうとしつつバレかねない行動をとるのは、うん。仕方がないよ、性癖なんだもの。


 まあ、私は一般性癖なので隠さなくてはならないような異常行動はないのだけれどね。今の私の隠し事なんて、自分が転生者であることくらいだ。性癖より隠さなきゃだね。


 そんなふうに智洋くんで遊びつつ、基本的には甲斐甲斐しく面倒を見てやる。光ちゃんはいいお姉ちゃんになりそうねー、なんてお隣ママが言っているが、それも面白いかもしれない。同い年の幼なじみと姉弟のような関係を築いて、それを突然壊される子供はかわいいだろうな。私の目的には直接関係ないだろうが、おやつくらいの感覚で育ててもいいかもしれない。


「うんっ!光、ひろちゃんのおねえちゃん!」


 こういうのは、子供のうちから親に刷り込んでおくのが一番良い。私がちょっかいかけても、手のひらで転がしていても、警戒されてはいけないのだから。そして人間というものは一度懐に入れたものには鈍くなるのだ。ただのお隣さんなら許されないことでも、幼い頃から家族のように思いあっている幼なじみであれば許される。最終的によからぬ終わりになったとしても、情で許される可能性もある。やはり情だ。情があるから人は面白い。


 どうでもいいが、私が智洋くんをひろちゃんと呼んでいるのは、幼児ロールプレイの一環である。幼なじみっぽくて楽しいね。私がこう呼ぶようになってから、お隣ママも同じように呼ぶようになったんだ。これは思春期になったら、そんな呼び方やめてと二次性徴期の始まりを告げるやり取りをしてくれるかもしれない。今から楽しみだね。転生者の時間感覚は長いのだ。


「……光おねえちゃん?」


 私がそんなことを企んでいるなんて露知らず、無邪気に素直に私のことを姉と呼ぶ智洋くん。純粋でかわいいね。よしよし、たくさんぎゅってしてあげよう。こんなので喜んじゃうなんて、本当にかわいいね。ほら、歪めよ。

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