第45話 赦し
「それでルナさんは教会にどのようなご用事があるのでしょう?」
私とシスターさんは教会に向にかって街路を歩く。歩きながら自己紹介は済ませた。シスターさんの名前はメリッサさんというらしい。私の素性についても話した。最初は驚かれたが、出会った時の経緯が経緯だけに警戒されるようなことはなく、すんなりと受け入れてくれたのは僥倖だ。やっぱり日頃の行いが良ければ――だめだまた思い出した。
「いえ、ちょっとここでは言いずらいことですかね」
暗い顔をしてそう言う私にメリッサさんは何も言わない、いや、何かを察して何も言わないでくれたのだ。
「あ、ルナさん。ここが教会ですよ」
そう言ってメリッサさんは教会らしき建物の前に立つ。教会の建物は様式に違いはあるものの白を基調とした造りになっており、遠目から見ても目立つような造りになっていた。
「それでは、私は神父様を呼んできますので、ルナさんは教会の中でお待ちください」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってメリッサさんは教会の中に入って行く、私もその後に続くように教会の中に入ろうとした時、子供たちが遊んでいるような声が聞こえた。この教会は孤児院も併設しているのだろうか?私はそんなことを考えながら教会の中に入って行く。
私が教会の中へ入り扉を閉めると、外の喧騒から一転して教会の中は
私がそうやって物珍しそうに教会の中を見回していると、
「教会は初めてですか?」
と、私に誰かが語りかけてきた。私は声のする方を振り返る。するとそこには男性用の修道服を着た黒目で白髪の中年男性がそこにいた。
「神父様…ですか?」
「はい、タダシ・カグラザカと申します」
「カグラザカってことは転移者なのですか?」
「その通りです」
私は転移者と聞いて警戒の色を強くする。今までの経験が自然とそうさせてしまったのだ。そんな私の警戒に気付いたのか神父様は「まあまあ落ち着いて」と前置いて言う。
「私はこの通り丸腰です。
確かに神父様は隙だらけで私の前に立っているし、もし何かがあったとしても今の状態ならどうにでも対処できる。それに――この人の良さそうな笑顔を前にすると警戒する気が失せて来る。
「すみません、今まで碌な転移者と転生者に会ってこなかったので……」
当然サジさんは別である。
「そのようですね。人は急に力を得ると間違った道に進むこともあります。ですから貴女が転生者や転移者に対して警戒をするのも良くわかります。悲しいことですがね……」
神父様はそう言って悲しそうに目を伏せる。その様子を見て私は確信したこの人は良い人なんだと。警戒する対象などではないのだと。
「おっとすいません。湿っぽい空気にしてしまって」
「いえ」
「それで貴女――シスターメリッサからは名前を伺っているのですがルナさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「はい、かまいません」
「それではルナさん。この教会にはどのようなご用事で参られたのですか?」
「それは――懺悔したいことがありまして……」
「――そうですか、ならばこちらへどうぞ、懺悔室がございます」
「はい」
言われて私は神父様の案内で教会の一室に通される。そこはとても小さな部屋で椅子が一脚だけ置かれており、向かい側には衝立のような薄い壁が設けられており、その壁の向こう側にはおそらく懺悔の聞き手である神父様がいるのだろう。
私が椅子に座るとややあって壁の向こう側から声がする。
「この懺悔室には消音の魔法がかけられています。ですので声が外に漏れる心配はございません」
「そうですか――」
そこから私は堰を切ったように話し出した。この世界に転移してからここに至るまでの経緯を、その中で盗賊の頭を殺してしまったことを。盗賊の頭は加害者である一方姉の悪行の被害者でもあること、そんな人間を殺してしまった罪悪感で今も心が潰されそうな重圧を感じているのだと。気が付けば私は涙を流しながら嗚咽混じりに話していた。それを神父様は何も言わずただただ聞いてくれていた。
しばらくして、すべてを吐き切った私に神父様は優しく言った。
「ルナさん少し外に出ましょうか」
言われるがまま私は神父様と一緒に外に出る。すると街の喧騒や近くで遊ぶ子供たちの声が再び聞こえてきた。すると神父様は言う。
「ルナさんこの街についてどう思われますか?」
「賑やかでとても良い街だと思います」
「そうでしょう、たまに困ったことも起こりますが、この街は至って平和で良い街です。私も転移したての頃、この街の人々に良くしていただきました。今でもこの街の人々に感謝しているくらいで、私が神父という職に就いたのもこの街の人々に何か返せるものがないかと思ってのことなんですよ」
「そうですか」
それが私のことと何の関係があるのだろうか?私がそう思っていると、神父様は続ける。
「ルナさん、貴女は確かに罪を犯したのでしょう。それ故に貴女は苦しみ藻掻いている。それは決して消えるものではないのかもしれません。ただ、貴女は少々真面目が過ぎます。自身の罪ばかりに目がいってしまい、それ以外のことに気がつけていない。ルナさん貴方は私たちこの街の住民が貴女に助けられたということに気付いていないでしょう?」
「私がこの街の人を?」
「はい、貴女が殺した盗賊はこの街――いや、ベアハッグ領の人々にとって悩みの種の一つでした。彼等はこのベアハッグ領の人々を襲い、殺し、全てを奪っていく悪魔のような存在だったのです。そんな盗賊たちを貴女は退治してくれた。この喧騒が変わらず在るのも貴方のおかげなのです」
そこまで言うと、神父様は私に正対し深々と頭を下げる。
「ルナ・フタバさん本当にありがとうございます。今の私たちの笑顔が在るのは貴女の――貴女の罪のおかげです」
私は自然と涙を流していた。それはさっきまでとは違う種類の涙であった。許された気がした。救われた気がした。それによる安堵の涙であった……
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