第43話 拭えぬ罪悪感

 私たちがベアハッグ領に入ってから一週間、ようやくベアハッグ領の中心地であるベアハッグの街に着いた。やはりというか当然私は馬車の中、ガルシアさんの説明待ちの状況だ。この街での一姫の悪行はどのようなものか、気がかりではあるが村の盗賊騒動の時に盗賊の頭が言っていた言葉、


「すべてを奪われた。か」


そして最期には仇の妹に命まで奪われた。最悪の人生だ。罪悪感が波のように押し寄せて来る。つい先日までラッキースケベがどうとか考えていた自分が恥ずかしい。私はもうそんなことを考えてはいけない人間になってしまったのだ。そんな考えが頭をよぎる。

 ふと、向かい側に座るロレーヌを見る。ロレーヌは心配そうに私のことを見ていた。駄目だよロレーヌ。私はもう心配されるような人間ではないのだ。人を殺した大罪人なのだ……


「あの……ルナ――」


 ロレーヌが私に語りかけてその時であった。馬車の扉が開かれた。


「ルナ、外に出ていいぞ」


「ありゃ?私外に出ても良いのですか?」


「ああ、どうやらこの街にはカズキ・フタバは立ち寄らなかったらしい。だからこの街でお前が外に出ても先の村のようなことは起こらないだろう」


「わかりました。それじゃあ外に出ます。と、その前にロレーヌ何か用だった?」


「いえ……なんでもありません」


 ロレーヌはそう言うがロレーヌの表情が何かありそうな顔をしている。しかし、ロレーヌが何も無いというのだからここはロレーヌの言葉に従うとしよう。

 そして私は外に出ようと席を立ち、馬車の外に出る。


「今日の宿泊場所は領主様の屋敷なのですか?」


 外に出た私はガルシアさんに訊く


「ああ、そうだ」


 ガルシアさんはそう短く返事をすると


「行くぞ」


と言って私たちは領主様の屋敷に向かうのであった。


 そして私は今領主様の屋敷の客間でサジさんと二人で休憩という名の座禅を行っていた。


「ほら、また魔力が乱れてる」


「すみません……」


 私は盗賊の一件以来、座禅に集中することが出来ないでいた。答えは簡単目を瞑って集中しようとすると盗賊の頭の死に顔が脳裏を過るのだ。そんな状態ではとてもじゃないが集中なんて出来ない。というか罪悪感が拭えない。

 そんな私を見かねたのか、サジさんは短くため息を吐くと、


「駄目だねこりゃ、ルナちゃん座禅はここまでにしてちょっとお話でもしようか」


「話ですか?」


「そ、お話」


「一体何の?」


「なんでもいいよ、ルナちゃんはあたしに何か話したいことはない?」


 言われて考えてみるが特に何も思いつくことは――あった。


「そう言えばイーターが形状変化しました」


 そう言って私は「抜喰バックウ」と唱えると手甲形態になったイーターを召喚した。


「おお!手甲の形にしたんだね」


「ふっふっふ、これがただの手甲じゃないんですよ。ねぇイーター」


「フッフッフ、その通りだルナ」


 私とイーターが不敵な笑みを浮かべながらそう言う。するとサジさんが


「と言うと?」


と訊いて来る。


「ここから更に形状変化が出来るのです」


 言って私はイーターに魔力を流す。すると私の手の側面部分から刃が出てくる。


「へぇ~そんなことまで出来るようになったんだ」


 と、サジさんは感心する。そんなサジさんの反応に調子に乗った私はイーターに流す魔力を出し入れしてイーターを伸ばしたり縮めたりを繰り返す。


「すごいねぇ~、それで盗賊の頭もたおせたんだ」


 サジさんは無意識にそう言ってしまったのだろう、そう発言した後にしまったという顔をする。

 私も私でサジさん発言に反応し、再び盗賊の頭の死に顔が脳裏を過り気分が暗くなる。何を浮かれていたのだ。私にそんな資格はないのに……


「あのね、ルナちゃん。あたしは――」


 サジさんが頭を掻きながら私に何か語ろうとしたその時、客間のドアがノックされる。


「どうぞ」


 私がそう言うと、ドアの外からロレーヌが客間に入って来る。


「どうしたのロレーヌ、仕事はもう終わったの?」


「いえ、それはまだ終わっていないのですが」


「それならどこか出かけるの?」


「いえ、そうでもなく……」


 ロレーヌが何か言いたげにしているが、どう話してよいのか迷っているという感じだ。しかし、ややあってロレーヌは何か決心したように私に言う。


「ルナ、教会に行ってみてはどうでしょう?」


「教会ってあの教会?この世界にもあるんだ」


「ルナの言う教会の定義がわかりませんがたぶん合っていますし、数は少ないですがあるにはあります」


 教会の定義か、私としては教会と言えば神様にお祈りしたり、懺悔したり――そういうことか。


「教会で懺悔してこいってこと?」


「いえ、懺悔という程でもありませんが、ルナは先の村での一件以降調子が悪いようですので……」


 言ってロレーヌは何と言って良いのかわからなくなったのか口ごもる。するとサジさんがロレーヌの言いたいことを代弁するように言う


「つまり、姫様はルナちゃんの調子が一向に良くならないから、教会に行ってお悩み相談してもらえっていってるの!」


 そうはっきりと私に告げるサジさん。


「見知った仲のあたしたちより、他人の方が話しやすい場合ってあるじゃないだから姫様は教会に行って来いって言ってるんじゃないかな?そうでしょ姫様」


「はい、特にこの街の神父様は評判がよろしい方のようですので、ルナの不調の原因ももしかしたら解決してくださるのでは、と思いまして」


「こうしてことあるごとに思い出して暗くなるくらいなら、一度思いっきり吐き出してきなよ」


「思いっきりですか」


「そう、思いっきり」


 確かにいい加減滅入っていたところであるし、あまり皆に心配をかけるのもよろしくない。サジさんやロレーヌの言う通り、教会に行ってみるのも良いかもしれない。


「わかりました。行ってみます。ロレーヌその教会ってどこにあるの?」


「ここに地図がありますのでお渡ししますね」


 そう言ってロレーヌは手に持っていたこの街の地図を私に渡す。


「ありがと、それじゃあ行ってくるよ」


 私はそう言うと教会に向かうことにする。するとサジさんが言う。


「ルナちゃんちょっと待った」


「何ですか?」


「イーターを装備したまま教会に行くつもり?」


 そう言えばイーターをしまうのを忘れていた。


「それもそうですね。ノウ――」


「ルナ、ちょっと待て」


「なにさイーター」


「俺もその教会とやらに興味がある。だから俺も一緒に連れていけ」


「っていわれも教会に武器を持ち込むわけにはいかないよ」


「武器でなければ良いのか?」


「うん」


「ならば少し待て」


 言ってイーターは変形を始めブレスレットのような形に変形した。


「あんたこんなことも出来たの!?」


「いや、やってみたら出来た。成せば成るというやつだな」


「そんなものなの?」


「そんなものだ。兎に角、この形ならば問題あるまい」


「そうだね」


「ならばその教会とやらに向かうぞ」


「うん、それじゃあロレーヌ、サジさんいってきます」


「「いってらっしゃい」」


 こうして私とイーターの二人は教会に向かってみることとなったのである。

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