第一章~異世界チュートリアル~

第2話 異世界テンプレ1

「知らない空だ」


 とは言ってみたものの、青空には変わりはない。

 私は上体を起こして周囲を見る。周りには木や草が鬱蒼と生い茂っている。どうやら森の中のようだ。


「アールとか言ったかあんにゃろう。次に会ったら覚えてなさいよ」


 と、独り言を言ってみる。しかし、周りからは何の反応もない。そら当然だ、森の中なのだから、それならば。

 私は右手を目の前にかざしてある言葉を唱える。それは当然


「ステータスオープン!!」


 はい、何もでない。どうやらこの世界にもステータスなんて便利な機能はないようだ。

 ならばお次は、私は適当な木を見繕い、それに向けて掌をかざす。


「ファイヤーボール!!」


 ほら、何も起きない。異世界転移ときたらチート能力じゃないのか?今のところ私はオタク趣味を持ったただの女子高生。この世界にもしモンスターなんかがいた日にゃ私は……

 想像したらなんか怖くなってきた。ここは一先ず人を探そう。アールの奴もきっと人里近くに私を転移させてる筈だ。


「よし、ならば後は進むのみ」


 と、一歩を踏み出したところで気が付く。


「あれ?いつの間にか服装が変わってる」


 転移させられる前の私は、高校の制服を着ていたというのに、今は中世ヨーロッパ風の上衣にショートパンツにニーハイソックスと革ブーツという動きやすい服装に変わっている。因にではあるが私の見た目を説明すると黒髪黒目に髪型はセミロングの長さの髪をサイドテールでまとめていて、顔立ちは友人たち曰くキレイ系でカッコいい寄りの顔立ちをしているとのこと。身長や体型は標準型だ。

 さて、私の見た目はここまでとして、旅立の第一歩の続きを――


「キャー!!」


 と女の子の悲鳴が聞こえた。

 ここにきて異世界テンプレイベントの始まりか。

 私は逸る気持ちを抑えつつ、イベント会場もとい悲鳴の聞こえた方向に走って行く。

 すると、


「姫、馬車の中へお下がり下さい!!」


 数名の護衛らしき兵隊さんが、姫と呼ばれた女性が乗っている馬車を守るように囲み。更にその人たちを身なりの汚い、いかにも盗賊といった人たちが取り囲んでいる。


「うっわ人数差が倍はあるじゃん」


 言いながら私は考える。このまま助けに出るべきか、というか私が助けになるのか?一応これが異世界テンプレイベントであるのならば私がなんかドバーっとすごい力に覚醒してあの悪党どもを―― 


「おい」


 千切っては投げ、千切っては投げの八面六臂の大活躍。そしてあのお姫様に見初められてってのは考え過ぎか、


「あっはっは!!」


「おい!!」


 でもそれが無いとは言いきれないよね。聞こえた悲鳴の感じではお姫様は可愛い声してそうだし、


「おい!!」


五月蝿うるさいなぁ、人が折角妄想という名のファンタジーにうつつを抜かしている時に邪魔をするなんて、あんた一体何様よ!!」


 キッと声の主を睨む私、そいつは汚い盗賊風の男だった。今お姫様を襲っている連中の仲間に間違いないだろう。

 ヤッバイどうしよう。一度睨んだものは仕方がないので睨んだままにしているが、このまま襲われてヤられる可能性の方が高い。私がそうしていると、その男が私の顔をジロジロと覗き込む。

 止めろ、それ以上近づくな、臭い息が香ってくる。するとその男は急に青い顔をになり、仲間たちの元に慌てた様子で走って行く。


「ソ、ソソソソソソソ魂喰らいソウルイーターだ!!魂喰らいソウルイーターが出たぞ!!」


ちょっと待って欲しい、こちとらただでさえ異世界転移したての女子高生なのだ。そんな大慌てで専門用語を言われても、意味がわからない。


「なにぃ、そんな馬鹿な話があるか!!こんな所にあの女がいてたまるか!!」


「じゃあ頭も見てみろよ。ほら、アソコ!!」


 盗賊がそう言って私の方を指差す。するとその場にいる全員の視線が私に集中する。


「あ、どうも」


 片手を挙げて挨拶をする。挨拶は対人関係の基本、ディスコミュニケーションを避けたい今、基本を守らずしてどうする。

 というわけで挨拶をするが、相手方は無反応。それどころか


「に、に、に、逃げろー!!」


 と、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「あれ?私何かしちゃいました?」


 とりあえずそう言っておく。

 盗賊たちが逃げ去った後、残されたのは5名の護衛の兵隊さんと、いまだ馬車の中の姫様、そして私の合計7名


「ラッキー7じゃんイェー!」


 とフレンドリーに兵隊さんに近づく私。するとその中の一人のイケおじ風の兵隊さんが私に剣を向けながら言う。


「き、貴様魂喰らいソウルイーターのカズキ・フタバだな!!」


 はい、わかってました。何かしちゃったのは私じゃない。


「私の姉が何かしちゃいましたか?」

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