禁忌管理委員会処理行動課

ガジン

第1話

「しかし面倒な事もあったもんだ。下請けってのは選ぶべきだぜ」

「まぁな、どちらにせよ持ち出されたモンは仕方がねぇ」


小型のバンの中で男が二人。

一人は機械化した右手が覗いている。もう一人は四肢への機械化は見られないが生来の物ではない機械の目がついている。

機械の腕を持つキャンサーと機械の目を持つレオの二人である。

二人は軍部と企業2つに席を置くとある女の私設部隊の戦闘員であった。

現在二人はその女からの仕事の最中であり大きなソフトメーカーから持ち出された電子ドラッグの奪取を命じられていた。

ダビング防止措置が設定してあるハードごとの盗難であり中のデータがコピーされるのも時間の問題である。二人はダビング防止措置が破られるまでの間に電子ドラッグを取り返す必要があった。


「今回は全身の機械化を想定し強装弾の仕様が許可された。 って事で何時もの回転式拳銃レンコンとショットガンで行くぞ」


樹脂製の箱をレオに渡すキャンサー。

レオは面倒そうに箱を受け取る。


「強装弾かぁ 俺も機械腕にしようかねぇ、痛ぇよ。腕が」


レオはショルダーホルスターに入れてある回転式拳銃を抜き、弾倉から弾を排出する。丁寧に弾をこめ直しホルスターにしまう。残った弾はスピードローダーにセットされていった。


二人はバンのロッカーに備えているショットガンを手に取りバンから下りてゆく。







「キャンサーより、これから作戦を開始する」


耳の後ろを抑え本部に状況を通達した。


「本部より行動の制限はなしと通達」

「了解」


二人は煤けたビルの前に立つ。

大企業が管理する都市から少し離れれば二人のいる小汚い街ばかりである。

ソフトメーカーより持ち出された電子ドラッグは新興のマフィアによっての犯行であった。

世界的大企業の生物兵器の流出と世界大戦により国体と言うシステムが崩壊してしばらくがたち、国にかわり複数の大企業が都市を運営する現在、大企業の手から溢れた街や都市はこのように煤けて中小企業やマフィアが支配するある意味での無法地帯が数多く存在する。


二人は鉄製の扉を前にした。


「いくぞー」


気の抜けた声と共にキャンサーが足を出す。

轟音と共に蝶番から閂までがひしゃげ、人が通れる隙間が空いた。


「相変わらずの出力だな。いや、前より強いな」

「わかるか? 人工筋肉のチューブ変えたんだ」


キャンサーとレオは雑談を交えながらショットガンを構え進んでいく。

彼らは元々スラム街育ちであったが、大企業の軍へ入り極めて厳しい軽歩兵としての訓練を受けたスペシャリストであった。


ドアを破ったのにも関わらずマフィア側から人が出てくる気配は無い。

エレベーターのドアを変形させ使用不可にすると階段を上がっていく。


「居ねぇな。こりゃ最後にでかいのが来るかなぁ」

「俺もそれに賭けるぜ。目を賭けたって良い」

「賭けが成立しねぇな、て言うかお前の目は換えが効くじゃねぇかよ」

「だからさ、本当に大切なオリジナルってのは賭けちゃいけねぇて婆さんも言ってたぜ」

「そうかい。でもお前の婆さん全身機械フルサイボーグじゃなかったか?」

「後悔じゃねぇか?」


キャリアがエレベーターやドアを壊し進んでいったがもう残り二階である。


「あらら、賭けは負けだなぁ。俺もお前も」

「見てぇだな」


残り二階と言う中で扉の向こうから大型の大気ジェネレーターの駆動音が聞こえてくる。

どうやら全身機械の戦闘員が居るらしい。

高出力な大型モデルになれば相応の音も響く。とは言え呼吸音に等しいキャンサーの大気ジェネレーターは特別性でありその限りではない。


キャンサーはショットガンの薬室にスラグ弾を込めた。


「俺は周りにいる有象無象でも蹴散らす。キャンサーは全身機械デカブツを頼むぜ」


レオは薬室に散弾が入っている事を確認した。


「了解。ケツの穴引き締めて頑張ろぅぜ」


扉の向こうでモーター音がしてくる。

二人は扉から左右に飛のく。

瞬間、扉は穴だらけになった。

回転式機関銃による掃射である。


キャンサーは煙で見えない中ではあるが、射線の元を狙って撃った。

金属音がなり被弾した事が伺える。


煙が薄くなると機械混じりや生身の男たちが廊下へなだれ込んでくる。

レオはキャンサーに代わり、散弾で一人一人うち殺していた。


「誰だか知らねぇがウチがマフィアってのは承知か!」


大型の全身機械から合成音声が響く。

キャンサーの返事はもう一発のスラグ弾であった。

大型全身機械の装甲が弾けるように変形する。


「旧型とは言え戦闘型のサイボーグは硬ぇなぁ!!」


キャンサーは弾倉に残っていた弾を含めショットガンで全弾を叩き込む。装甲はボロボロになっているが、肝心の機能は損なわれず、機関銃を掃射し、残る手足が壁を傷付けている。


キャンサーはレオが片付けた男達の横を通り、大型機械のもとへと近づいて行く。


「いやぁ オメェみたいなデカイのはガキ転がすにはちょうどいいかもしれねぇな」


キャンサーはショットガンをストラップで肩に吊るしホルスターから回転式拳銃を取り出す。

崩壊以前の世界で傑作であったポリスガンである。357マグナム仕様の弾は強装になり車や壁を貫く。

ショットガンへ特殊弾頭を装填しても良かったが、キャンサーにとっては拳銃のほうが好みであった。


「じゃぁな」


キャンサーは引き金を引き、3発の弾を撃ち込んだ。

エネルギー源であるジェネレーター、中央制御装置を破壊し、最後には甲殻に覆われた脳を破壊した。


「レオ、終わったぞ」

「俺はもう終わってるよ」


壁は窓が壊れていないものの、死屍累々が適当な部屋へと変わっていた。

障害を排除し二人は最上階へと向かっていく。


「なぁいつも思うんだけどよ、馬鹿ってのは上に登りががるよな。中途半端に賢いと地下に潜りたがる」

「さぁな馬鹿と煙は高いところが好きってやつだろ、俺だって好きだぜ高い所はよ。潜りは知らねぇけど馬鹿と違って人目が気になるんだろうさ」


事前に大方の構造を把握していた二人はいつも通り高い場所を好むマフィアの間取りを覚えていた。

最上階以外はろくな部屋も無く、部屋住みの若い衆や金を扱う場所しかなかった。


階段を登り終え、厚い鉄の扉の前に立つ。

鉄格子も備えた部屋はシェルターに近かった。

キャンサーは何度が軽く扉を蹴る。


「こりゃ俺でも蹴破れねぇな」

「マジかよ、戦車でも乗り込まれるつもりか?」

「バカ言え、俺のほうが汎用戦車何かよりも強えよ」


レオは扉から壁に目をやりウロウロとし始める。

彼の目は機械化され可視光線以外の光や電気の流れも見えるようになっている。

彼の目は大抵の物を見通す事が出来るのだ。


「おいキャンサー、ここだ。鋼板の繋ぎ目がある。鋼板自体も15ミリ以下だな」

「了解」


レオの指す場所へ足を向ける。

壁へ少し足を浮かせたと思えば轟音と共に大きなか穴が出来ている。

防弾用に仕込んだ鋼板は花が咲いたようにめくれ上がっていた。


「こんにちは」


ショットガンを構えたキャンサーが自分でこさえた穴から入っていく。

中にはキャンサーが穴を開けた事により圧死している数名と、難を逃れて未だにコンピュータを操作する残りの数名、最後に着飾った中年が一人居た。

引きつった顔でキャンサーを出迎えた中年にキャンサーはショットガンを向ける。


「おいおい、挨拶は大事だぜ」

「キャンサー? 俺たちゃ招かれざる客ってヤツだ歓迎はしてくれねぇみたいだ」


遅れてレオも入ってきたようだった。


「誰だよお前たちは! 軍の奴らか? こんなドラッグに出張ってくるとは暇なようだなぁ!」


一泊遅れて激高する中年が唾を飛ばす。

キャンサーはゆっくりと歩いていく。

レオはコンピュータを操作していた数名の雀頭を吹き飛ばした。


「おっさん。あんた新顔だったんだろ? 焦るのもわかるが、誰も手を出してねぇモンはあぶねぇんだよ」


これまで誰も持ち出す事のなかった電子ドラッグを持ち出したマフィア達は新興のグループだった。

もちろん汚職や恐喝等で持ち出される憂き目には何度もあっていたが、老舗マフィア達は途中で手を引いていっていた物である。

今回の電子ドラッグは世界大戦寸前の時代に書かれたプログラムにより脳へ多幸感をもたらす物であった。だがそのプログラムはロストテクノロジーと化し、すでに書く事は出来ない物である。プログラムのある部分は兵器や機械化換装時のプログラミングの雛形になる部分も含まれていた。

何よりこの電子ドラッグプログラムはあるデータを隠す物でもあったのだ。


新興のマフィアであったこの組織は大きな事を成す事に執着し、腰を据えた計画や未来は無かったようである。


「そういやよ挨拶は大事だって言ったな。自己紹介も当然大事だ。俺は禁忌管理委員会処理行動課第8係係長キャンサーだ」

「右に同じく、レオだよ」


中年の顔が引きつる。

自分の出した手がまずい場所を触った事を確信した。

大企業の下である程度の自由を過ごす者にとって障害として聞くことのあった者たち。

都市伝説的に囁かれる彼らはスラムや大企業関係なく何かの条件で現れ、関わった者を殺すと言う。

自分が目の当たりにしていると言う事はそういう事だと認識してしまった。


「あぁヤバいブツだったって事か」

「そうさ、知らなかったんだろ。でも仕方がねぇ」


キャンサーは中年の頭を消し飛ばした。


死体が散乱する中、コンピュータたちに繋がれていたドラッグを保存した箱を回収した。


「目標奪取」







「こちらキャンサー、先程品物の奪取を終えた」

『了解。回収班がそちらへ向かうわ。引き渡し後は企業連合から半径200キロ地点での待機を頼むわ』

「了解。引き渡し後は好きにさせてもらうぜ」

『お好きに、たまには顔でも出しなさいよ』

「面倒だな。俺はきれいな空気はたまにで良い」

『まぁ、若い女が誘ってるのに』

「好きに言ってろ」

『まぁいいわ、次もよろしく』

「イエス、マム」


車へ戻った二人は血のついた服から着替えていた。

タバコを吹かし各々好きなようにすごしていた。





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