須賀さんが

森 三治郎

第1話 須賀さんが・・・・

大角さん(仮名)から聞いた話




 会社員の大角おおかどさんは地方小都市R市に転勤し、その郊外のⅠ地区の一軒家を借り受け通勤していた。そこに居た30代と同年代、独身と共通項のある須賀すがさん(仮名)と知り合いになった。


同じ自治会に所属しており、折あるごとに顔をあわす。


時々、家に行き来しお茶を飲むような仲になった。




 10月の日曜日、何のきっかけか忘れてしまったと言うが、大角さんは須賀さんと連れ立って、大角さんの車でR市のデパートに買い物に行った。




 その帰り道、大角さんの車を二人乗りのバイクが猛烈な勢いで抜いて行った。


大角さんの車が70キロぐらい出ていたというから、おそらく100キロは軽く出ていたらしい。


「危ないな」と言いながら、しばらく行くと県道のゆるやかなカーブの先に車が止まっていた。




 ハザードランプを点け車の後ろに付けた。




 運転手は車の外に出て、電話をしている。車の20メートルぐらい先に鉄屑と化した塊があった。その5メートルぐらい先に、フルフェースのヘルメットの人がうつ伏せになって、右手を前へ、左手の肘を顔の下にし、右足を頭付近まで折り曲げ、左足をくの字に折り曲げ、つま先を空に向けたアクロバティックな姿勢で横を向いて倒れていた。


車の横にはヘルメットが転がっており、その横の電柱にもう一人の人間だった物が張り付いていた。


顔半分が潰れ、ぐちゃぐちゃになっている。残りの顔半分の方は目玉が飛び出していた。


身体だったものの下からは、じわじわと血だまりが広がっていった。




 とても、まともに見られない。




 その場にしゃがんでいた須賀さんが「行こう」と立ち上がったので、大角さんは『警察への目撃証言はいいのかな』と思いながらも、須賀さんに同意しその場を立ち去った。




 帰り道「凄かったね」「吐きそうだった」「今夜、飯食えそうもないなあ」「スピード、出し過ぎだ」「20メートルぐらい吹っ飛んでたよ」と須賀さんに話しかけても、「う、ううん」と生返事ばかりだ。


無理もない。そうとうのショックを受けたのだろうから。




 須賀さんの家に着くと、車が止まるのももどかし気に、須賀さんは速攻で家に走った。


吐き気をガマンしていたのかと、気の毒に思い「大丈夫ですか」と声をかけ大角さんは家に入った。


リビングは真っ暗だった。


不思議にも「ここは開かずの間なんだ」と言っていた部屋の戸が開いており灯りが漏れている。中から水道を使う音が聞こえた。


「須賀さん、大丈夫かい」


と、須賀さんを見ると、須賀さんははにかむような、困惑するような、抗議するような不可解な顔をしていた。


見ると、毛の付いた平べったい物を洗っている。隣の液体の入ったビンには白いスジ状の物が付いた目玉が浮いていた。


周りを見ると、大小様々なビンに入った、ヘビやガマガエルや何かの内臓、手首、脳みそなどが棚いっぱいに置いてあった。


『ぞあわわ~』と背筋に悪寒がはしり、大角さんは速攻で逃げ帰ったと言う。




 その後、大角さんは会社に強硬に転勤を願い出、R市から出て行った。




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須賀さんが 森 三治郎 @sanjiro

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