ある日突然巨大財閥幹部の息子になった件 ~女の子たちが寄って来るんだが、正直勘弁してほしいです~
@takoyakiko
未来への憂いと期待
「こんにちは、川本紀仁くん。突然だが、君には私の息子になってもらう」
「………はい?」
家を訪ねてきた背広の男。
ある日突然現れた彼は、何の脈絡もなく僕にそう告げた。
僕の名前は
3年前までは川本だったんだけど、突然現れた『父親』に引き取られる形で苗字が変わった。
「息子になってもらう」とか言っていたけれど、実際血の繋がった子供らしい。認知しよう、ということだろうか。
母を早くに無くし、その母方の祖父母に育てられていて、父親のことは全く知らなかった。
最初は「何をいまさら」と思ったけれど、祖父母の生活も保障し、僕の生活も比べ物にならないほど良くなったことで、その不満は早くに消えてしまった。
引き取られてから3年。僕ももうすぐ高等部に進学する。
「紀仁くん! 今日は学校行って先輩の練習見学するんでしょ? ほら起きて!」
「うーん、あと5分…」
「そんなこてこての返ししてないで! ほら!」
「…分かってるよー」
ぷんぷんと擬音が付きそうな怒り方で僕を起こす少女の名は、
初等部のころからの同級生で幼馴染。けれどどうやら父の部下の娘で、僕を監視しておくために近づいてきていたらしい。引き取られた後に知ったことだ。
今は友達兼僕のお世話係といった立場になっている。
凄い美少女で、胸も大きい。
中等部ではいつも人気だったけど、ずっと僕の傍にいて離れなかった。そのせいで男子たちからの嫉妬が凄くて苦労したなぁ。構わないで良いよって言ったのに、まったく。
ベッドから起きだして服を着替え、顔を洗う。
軽い朝食をとって外に出れば、もう車の用意が済んでいた。
「行ってらっしゃい。帰る時間は連絡してよね?」
「おっけー。それじゃ行ってきまーす」
車に乗り込んで目的地を告げれば、注意喚起の後にすぐに動き出す。
いつもは通学の時に愛華と乗っているから、一人はなんだか新鮮だ。自分で運転してみるのも悪くないかもしれない。免許でも取ってみようか。
そんなことを考えていると、目的地に到着した。
私立
『父』である仲宗根銀二が幹部を務める、天ヶ室財閥が所有する学園だ。
僕は引き取られた後、中等部からこの学園に通っている。
天ヶ室財閥は、国内最大規模のグループの一つで、電子系にめっぽう強い企業を多く傘下に持つ。
第三次大戦後の国内の成長に大きく貢献し、その力を拡大した…らしい。
正直よく知らない。教えてもらってもいないし、あまり興味もない。
そんな天ヶ室財閥所有のこの学園は、国内トップクラスの偏差値を持つ。それゆえ、非常に難しい入試に合格したエリートしか入学を許されない。多くの有力者、著名人の子息が通っているが、彼らとてその例外ではない。
学園内はとても広い。早足で歩いて、目的の第一体育館に到着する。
生徒認証をして中に入れば、既に練習は始まっていた。
ボールをつきながら素早く目配せし、チームメイトにスクリーンをかけてもらい中に切り込む。別選手のマークに付いていた相手選手が慌ててカバーに入るが、それを素早い切り返しで躱し、鮮やかにレイアップを決める女子生徒が一人。
「ナイッシュー!!」
周りから歓声とともにそう声がかかる。
その歓声に手を上げて、女子生徒は笑顔で応える。
彼女こそ、僕が春休みの今日学園に訪れた理由だ。
高等部一年、
文武両道を成績と態度で示す、男女問わず非常に人気な女子生徒だ。
美しい黒髪をポニーテールにまとめており、その風体は正に大和撫子といって良いだろう。
中等部の頃は剣道をやっていたらしく、その優秀な成績はステータスからも確認できる。
上昇志向の強い性格で、高等部からバスケを始めたらしい。既にエースとして活躍しているようだ。
練習がひと段落着くと、彼女は笑顔を浮かべて僕の元に来た。
「や。来てくれたんだ」
「そりゃあもう! 先輩に『良ければ見学しに来て』なんて言われたら、見に来ないわけにはいきませんよ!」
「ははっ、ありがと」
先輩とは学園外で偶然知り合い、そこから仲良くなった。
まだそこまで積極的な交流はないけれど、同じ高等部に上がれば機会は増えるだろう。
その後、先輩と軽く当たり障りのない話をしていると、練習再開の時間になったようで、先輩は「じゃ!」と片手をあげて戻っていく。
戻った先でチームメイトに何やらからかわれているようだ。先輩はうっすらと赤面し、首を横に振っている。
僕との関係について言及されているのだろうか。
先輩とはそーゆーのじゃないのだから、変な邪推はやめてほしいものだ。やれやれ、目立つのは苦手なんだけどなぁ。
その後しばらくして、僕は体育館を後にした。
練習が終わるまで見学するつもりだったのだが、これから新しいフォーメーションの練習をするとかで見学はやめてほしいと言われてしまった。別に拡散したりしないのに。
「ヒマになっちゃったなぁ。どーしよ」
仕方がないので、当てもなく学園の無駄に広い敷地内を歩いていると…
「せーーーんぱーーーーい!!」
「うぉああっ!?」
唐突に背後から誰かに飛びつかれた。この声は…
「──美海ちゃん!?」
「はいっ! こんにちは先輩! 偶然ですね!」
中等部二年、
独特な苗字を持つ彼女は、僕の一つ下の後輩で、あざと可愛い女の子だ。
学食で最後の一つだったパンを半分あげたら、懐かれてしまった。
以来、僕を発見すると突撃してくる。
「急に飛びつくのはやめてっていつも言ってるでしょ!?」
「えー良いじゃないですか別にー」
「良くない! ってゆーか…」
背中に感じる、控えめながら柔らかな、この感触は…
「あっ、当たってるから!!」
「えーー?」
僕がそう言うと、彼女はニヤリと笑って、僕の耳元で囁いた。
「当ててるんですよぉ?」
「~~~っ!?」
「こーーら」
「あうぅ」
僕が吐息染みたその声に目を白黒させていると、誰かが美海ちゃんを叱りつけて引っぺがしてくれた。
僕は涙目になりながら、その相手にお礼を言う。
「ありがとう。宮鷹さん」
「どういたしまして」
中等部三年、
同級生で、ついこの間まで同じクラスだった。明るい色の短髪を持つ美少女だ。
ちょっぴり不愛想だけど、時折見せる笑顔がとても可愛いことを僕は知っている。高等部でも同じクラスになれると良いなぁ。
「二人は何をしてるの?」
「委員会の仕事だよ。中等部の卒業式こないだやったばっかなのに、なぜかやらされてる」
「そ、そっか。それは災難だね…」
「そういう仲宗根は?」
「あ、僕はバスケ部の見学に誘われて…」
「ふーん。佐薙先輩?」
「あ、えっと、まぁ…」
「……そ」
「むぅぅ! 紬先輩いつまで私の首根っこ掴んでるんですかぁ!」
「あ、ごめん」
「おわあ!?」
首根っこを掴まれたままじたばたと暴れていた美海は、唐突にその支えを失って前につんのめる。
「やるならもっと優しくしてください!」
「はいはい行くよー。んじゃまたね仲宗根」
「あっ、ちょっと置いてかないでくださいよ! …じゃあ紀仁先輩、また!」
「うん、またね」
そう言って離れていく二人を見送って、僕は散歩を再開する。
少し歩くと自動販売機が姿を現したので、お茶を買って近くのベンチに座り、一息つく。
もうすぐ高等部での生活が始まる。が、僕には一つだけ懸念があった。
それは、僕が高等部に上がったら、天ヶ室財閥幹部の仲宗根銀二の息子であると公表されることだ。
天ヶ室財閥は現在、とある事情の元で代理当主を頂いている。
そしてこれを機に、一族の人間が当主になるという慣例を変えようという動きがあり、次期当主の座に父を推す動きが大きくなっているらしい。
この学園は、有力な政治家や著名人、企業トップの子息・令嬢と有効な関係を築く場にもなっている。
僕が仲宗根銀二の息子だと明らかになったら、多くの人々が仲良くなろうと近付いてくるに違いない。きっとたくさんの女の子も、将来を見越して近付いてくるだろう。
「────はぁ」
やれやれ。僕は今の交流に満足しているのだから、周りに女の子がもっと増えてしまうと困るのだけれど。
「……けどまぁ、楽しくやろう!」
大丈夫さ。僕は誇れるステータスも持っている。
勘弁してほしいけど、立場的に考えれば、ゆくゆくはお嫁さんを何人か貰うことになるかもしれない。でも愛華や先輩、美海ちゃんに宮鷹さんもいる。
新しい出会いだって、きっとあるしね。
「うん、楽しみだ!」
「と、まぁそんな感じで考えてますよ、多分」
「マジかぁ。思春期……って言っていいのかね、それは」
「どうでしょうね。けど、彼は元々増長しやすい質でもあると思いますよ、私は」
「…同じクラスはちょっと避けたいと思っちまうな。とゆーかその無駄に凝ったエミュは何なの?」
「似てるでしょう?」
「いや会ったことないし」
「そうですけど」
「まぁ、何はともあれありがとうな」
「ホントですよ。様子を探るためとはいえ、交流を続けたせいで目を付けられました。おかげで勘違いされて『ハーレム要員にぃ~』とか考えてるんじゃないですか、彼」
「けど、このタイミングで公表ってのはやっぱ囮だよなぁ」
「間違いないでしょうね。財閥乗っ取りのための色々から目を逸らさせるためですよ」
「その点で言えば同情の余地はあるけど…」
「私はないですね。彼多分周りの女の子たちから好かれてると思ってますけど、純粋に好いている子は一人もいません。相手の立場に立って考えることができない、自分本位の典型ですよ」
「うわぁ辛辣」
「好かれてると勘違いするとぐいぐい来るの、正直キツイので。仲宗根の息子と公表された後、立場に驕った振る舞いをしだしたら目も当てられません。今でさえ自己中な考えに無自覚ですし」
「でも勘違いさせる挙動はしてるんだろ?」
「それは、まぁ…。そっちの方が色々話も聞きやすいし」
「女って怖ぇ~」
「ま、ともかくそんなわけなので、彼に関してはきっちりマークしておく必要はないかと」
「おっけ。でも念のため、最低限の交流は試みるわ」
「そうですね。私もそうします」
「あぁ、頼む。……ところで、そろそろ夕飯を作ろうと思うんだが」
「シチューって言ってましたっけ。楽しみです」
「うん。…だから膝の上からどいてくれる?」
「ヤです」
「えぇ……」
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