そして彼女は言った

マフユフミ

そして彼女は言った


私、秘密にしていたことがあるの。


頬を切る寒さに不似合いなほど、青い空の下で彼女は言った。


私、わたしね、地球を滅ぼす力を持ってるの。


彼女はそういった、不思議な嘘をつくことが多い子だった。俗に言う不思議ちゃんとは少し雰囲気は違うのだけれど、独特の世界観を持っていたから、僕はこのときもたいして気にもとめず返事した。


じゃあ、本当に本当に苦しかったり辛かったりしたら、その力を使えばいいんだね。


ううん。


彼女はにこやかに否定する。


苦しかったり辛かったりするときじゃなくて、もう充分だなぁ、これ以上幸せになれないなぁ、と思った時に使おうって、昔から決めてるの。


そういうものか。僕はそう思った。そういうものか。


そして月日は流れ、彼女も僕もそれなりに年を重ねた。昔から変わらず僕たちは僕たちで、2人でいることをなんの疑問もなく受け止めていた。


ある晴れた朝。

僕は目が覚めてすぐ隣を見る。

同じベッドに横たわる彼女は、あどけない顔をして眠っている。

その顔を見ていたら、どうにもたまらなくなって、あらわになったまるい額にそっとキスをした。


ゆるゆる瞼を開いた彼女は、僕を見てやわらかく微笑んだ。

そしておもむろに手を天井のほうへ差し伸べる。




ドン!



重い音がして、僕たちは手を繋いだまま宙に投げ出されていた。


ねえ、私、これ以上もなく幸せだよ。


そうか、やっぱりキミは、嘘なんてついていなかったんだな。

僕たちが僕たちでいることを、こんなに幸せに思ってくれていたんだな。


でもね、それはキミだけじゃない。僕だって同じだ。

だからこんな能力使わなくたって良かったのに。


普通に殺してくれて、良かったんだよ。


そして僕たちは、空へと堕ちていった。

あの日の空よりももっともっと、深い青に堕ちていった。

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そして彼女は言った マフユフミ @winterday

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