短編集(ジャンル不定)

和泉将樹@猫部

いつも隣にいる

 妻を殺した。

 もう何年も、妻とは衝突した記憶しかない。


 その日は、子供が泊りがけの校外学習でいなかった。

 いつもなら子供の前だからと自制していたのが――が外れてしまったらしい。

 わずかに拳に感じた痛みは、しかし当然の報いだと思った。


 ただ、それだけで、妻は動かなくなった。


 死体の処理に困り果てた私は、妻を庭に埋めた。

 冬だったこともあり、腐乱臭はしないだろうと期待したら、折よく、数年振りと言われるほどの雪が降り、それがすべてを埋めてくれた。


 問題は息子だった。


 翌日帰ってくる息子にどう説明するかと悩んだのだが、なぜか息子は何も言わない。

 確かに妻は最近はほとんど家にいなかったのは事実だが――それでも息子は懐いていたはずだったが。


 そのまま数日が過ぎた。

 何も言わない息子が、逆に空恐ろしくなってくる。

 さすがに適当に言い繕っておくべきだと思えてきた。


「なあ、最近母さん家にいないが……」


 とりあえずしばらく出て行ってることにしよう。

 そう説明すると、息子は不思議そうな表情で振り返った。


「何言ってるの、父さん?」


 その時になって、初めて気付いた。

 息子の視線は、


「母さんなら、いつも父さんの隣にいるじゃない。仲良くなったんだね。嬉しいよ」


 その瞬間、全ての感覚が――消えた。



―――――――――――――――――

これ自体は確か昔親に聞いた話だったかな。

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