第18節 そしてカワイイの伝説が、始まる

 ダンセクの方やブロー小隊を伴って、倉庫まで戻ってきた。



「ゆみかさん! 先輩は!?」



 ダンセクの若い人には先に戻ってもらって、状況を知らせてもらっている。


 担架が用意されていたので、そこに背負っていた亜紀の体を横たえた。



「大丈夫。さぁ」



 彼女の頬を、そっと撫でた。



「戻っておいで。亜紀」



 ボクの中から力が抜けて、髪の色が黒に戻っていく。


 そして、の元に。



「――――ゆみか、ちゃん?」



 彼女が、帰ってきた。



 背後から意外に大きな、歓声が上がる。



「痛むところはないですか? 亜紀さん」


「ないけど……」



 亜紀さんがキョロキョロしてから私を見て、少し小さな声で言った。



「呼び捨ては、終わり?」



 ぐむ。



「…………そっちこそ」


「また今度ね」



 こんどかーそうかーたのしみになっちゃうなー。


 ……その悪戯っぽく笑うの、反則だと思うの。かわいいめ。



「せ”ん”ぱ”ぁ”い”」



 うぉぁ。涙と鼻水まみれのこぶしさんが倒れ込んできた。


 ……というか私も捕まった。



「よ”か”っ”た”あ”あ”あ”」



 あー……こっちに置いといた私の体、たぶん消えたんだよね。


 原理はわからんけど。見てた人たち、びっくりしたろうなぁ。


 心配かけただろうなぁと思って、亜紀さんをちらっと見ると。



 なぜか、首を振られた。んん??



「最”の”高”!!!!」



 はい?



 ずびっと鼻水と、ついでにどうやってか涙まで引っ込めたこぶしさんが、至近距離で私を見た。



「カワイイオーかっこよすぎるんですが!!!!」


「はぁ」


「変身シーンからのバトル開始! 派手で熱い攻防! ピンチかと思いきや強引に乗り越える力強さ!」


「えぇ~……」



 なんだこれは。こぶしさんオタか? オタなんか? かなり限界か???



「 そ し て 必 殺 技 !!!! プリティハンマー最高!!!!」



 …………あれ、技の名前まで。えっともしかして。



 通信死んでるリアダンでは、記録なんかとれない。


 首を回すと……モニターに私、というか可愛王の姿が映っていた。


 先に帰った人が持ってった映像を、みんなで見たってことか。



 あっれ? なんで横とか前からの絵があるのん?


 背中側からならわかるけど、どういう技術なのそれ???



「紫藤さん、御苦労さま。こぶしは仕事に戻りなさい」


「ぐすっ。チェックのために、もっかいカワイイオー見ますぅ」



 それは仕事なの? 趣味なの??


 課長さんも亜紀さんも苦笑いだし。


 まさかの残念系か、こぶしさん。



「さて……報酬の話をしてなかったね。紫藤さん」


「これ仕事でしたか。私はふつーにリアダン潜れれば、それで」


「あー、残念だが。リアダンはまだしばらく封鎖だねぇ」


「「へ?」」



 私ばかりか、亜紀さんも驚きの声を上げた。


 なんでさ。変なクマ、ボコしてやっつけたやんけ。



「亜紀くん、忘れたの? 奴らはあと6体いる。しばらくは様子を見ないと」


「あ」「は?」



 ろく? 全部で七体いたの?


 いや確かに、Vダンの方に出てた混沌の獣って呼ばれるボスも、七種類いたけど……。


 それ倒すまでダンジョン解禁は無理なの? だめなの?



「すぐ次が出てこなければ、良いんだけどね。


 20年前を考えると……ちょっと望み薄だ」


「どういうことです? 課長さん」


「倒した以上、に知られる。


 当然、追加戦力が寄越される」



 なんと?????



「課長それ、倒さない方がよかったのでは?」


「いやぁ? そりゃ亜紀くんだけなら、無理に倒すと後がなかった」


「むぐ」



 課長さんに笑顔で見られ、亜紀さんが口をつぐんだ。


 そして、私のことを、少し真剣な顔で見た。



「だが、君がいれば話は別だ。報酬が未払いの状況で、心苦しいが」



 彼は姿勢を正し、目をすいっと細めた。



「魔法を上回る神秘……可愛王。


 警察庁警備局公安課神秘対策室として、ご協力願いたい」


「課長!?」



 亜紀さんの悲鳴に近い声がかぶさるが、課長さんはゆるぎなく私を見続ける。


 公安……そうか。お母さんたち、は。


 あなたに守ってもらってるんですね――――草堂そうどう ひとしさん。



 私は、顔を上げた。



「一蓮托生ですとも、課長さん」


「結構。よろしく、



 しわ深く、にこやかな笑みを刻む課長さんが、手を差し出す。


 私はその手をとって、握った。



「はい、よろしくお願いします。草堂さん」


「普段は課長でよろしく~」



 なるほど。あくまで表の身分は、ダンセクの課長さんなのね。



「亜紀くん、手続きやったげてね。


 ま、今日のところは二人でかえって休んで、また次の機会に」



 亜紀さんが、深々とため息をついた。



「ごめんね、ゆみかちゃん」


「大丈夫、望むところです」



 リアダンに潜りたいなら、この……パニッシャーズの件は、なんとかするしかない。


 私にその力があるなら、全力を尽くすまでだ。



 それに、そうすれば――――



「? なに、ゆみかちゃん?」



 おっと顔を見すぎた悟られた。



「なんでもありません」



 すっと、目を伏せる。



 私は、できれば。


 私を、かわいくしてくれた、この可愛い人と。


 一緒に、いたい。



「とりあえず、送っていきましょうか」


「あれ? 亜紀くん話したよね」


「はい?????」



 課長さんに止められた。何のお話でしょうね????



「ゆみかくんの身柄は、あらゆる害意から守らなくてはならない、と」


「えっと、それは聞きましたけど」



 そんな話しとったんか。


 いやどういうお話だろう。なんで?


 私が魔法少女……というか、可愛王、だからかな?



「親御さんに許可はとった。君が守るんだよ、亜紀くん」


「「へ?」」



 え。なにその「許可」って。


 私初めて聞くんやけど?????



「荷物も送ってくれたそうだ。仲良くやるように」



 意外と器用にウィンクする課長さん。



 いやその。




 ……まじで????


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