カワイイで強くなるダンジョン配信~いいねと衣装で可憐降誕!カワイイオー!~

れとると

可憐爆誕・カワイイオー

第1話 アバター→コスプレ☆魔法少女!

第1節 配信少女、魔法少女を拾う

『『『『フシュゥゥゥゥゥゥゥ』』』』



 まだ少し遠いのに、息を吐く音がここまで聞こえる。


 四つの首を持ち、仁王立ちになったクマのような、化け物。


 混沌こんとんの獣、と呼ばれるダンジョンボスだ。



 撃破報告も、公式情報にもないレアボス。私も、過去に何度も挑んでる。


 せっかくだしと、探し回った甲斐があった。


 今回は十分な装備も持ち込んだ。一気に――――決着をつけよう。



<さすが人喰ってそうなクマ、迫力あるぅ>


<アチャ子がんばえー>


<いやよゆーでしょよゆー>



 目のはしにいくつか文字が流れた。


 私がダンジョンで戦う様子は、動画配信されてる。


 コメントがリアルタイムで見れるんだけど……気が抜けるなぁ。



『グワゥ!』



 よそ見してたら、首が一本


 私は後方にひょいっと、宙がえりする。


 クマの首が地面にめり込んで、土埃つちぼこりを上げた。



 手に持っていた矢の束を空中で放り投げて、私は一言。



「応援、よろしく!」



<かわいい!><がんばって!><かわよ><太ももえっろ><かわいー!>



 コメントがガーっと流れて。


 私から緑の光があふれて。


 力がみなぎる。



<――――技能スキル・セット、【◆◆◆◆】、承認ゴー!>



 システムメッセージが流れきる前に、私はクマの頭に立った。


 そして、あらかじめセットしておいた魔術をクイック起動する。



「【ライトニング・プラズマ】!」



 ライトニング・プラズマは、拡散する雷光の魔術。


 物体に宿やどして、強化することも可能だ。


 威力が非常に大きい……ただ欠点も小さくない。



 かなり広範囲に飛び散るので、狙って当てることが難しい。


 それどころか、普通に使うと自爆する、のだけど。



「いけ!」



 いかずちが宿った12本の矢は、3本ずつクマの首に刺さった。


 目に痛いくらい雷光が光り輝き、獣が黒く焦げていく。


 だけどクマの頭に乗ってる私は、感電することもない。



 私の謎のスキルは……注目を集めると、攻撃を当てやすくなる、というもの。


 同時に、私への攻撃は当たらなくなる。



<HPバーの減りえっぐ>


<一撃じゃないのこれ>



 そりゃバラまいた『月神の矢』は、一本でもエンドコンテンツの敵が消し飛ぶやつだもの。


 それに魔術までかけて、急所に当てたクリティカルヒットから……ほら。


 クマはぼふんと音を立て、完全な炭になった。



<すっご>


<さすかわアチャ子!>


<今日もよゆーだったね!>



 またコメントが流れる。



 首をもぐと第二形態になるとか。


 見えない即死攻撃が飛んでくるとか、噂はあったけど。


 終わってみれば呆気ないなぁ。



 ん? 倒したのにドロップ品が出ないな……なんて割に合わない。


 ま、記念討伐みたいなもんだから、良いけどさ。



 私はコメントの表示されてる方に、笑顔を――作って向けた。



「みんな、ありがとー!」




 ◇ ◇ ◇




 そして重い倦怠けんたい感を押しのけるように、ゴーグルを外した。


 天然洞窟だった景色は、雑然とした私の部屋に変わる。


 テーブルにゴーグルを置いた。脇には、無線で繋がってる専用端末。



 私は座椅子の背もたれに背中を押し付けて、思いっきり伸びをした。


 たまにはと思ってVダン――バーチャルダンジョンに潜って配信して、みたけど。


 やっぱり、人が全然いない。



「そりゃみんなリアダン行ってるもんね……」



 ダンジョンってものが、この現代日本にはある。


 でき始めてすぐ、モンスターが外に出るからって、政府が管理しだしたけど。


 そのあと作られたのが、ダンジョンシミュレーター。通称Vダン。



 本物のダンジョンを体験できるって触れ込みで、そりゃあもう流行った。


 私も端末を両親にせがんで買ってもらって、もう何年もやり続けてる。


 トップ勢に混ざって攻略し、配信して人気者にもなった。



 作り込んだアバターで潜るVダンは本当に楽しくて。


 なりたい自分になれているみたいで、夢のようだった。



「それももう終わり、か」



 しかし昨年、本物のダンジョンが解禁された。


 Vダンに飽き始めていた人たちは、みんなそっちに流れた。


 私の冒険仲間もみーんな行ってしまった。



<アチャ子はリアダンいかないのー?>


<ぜったいあっちでも強いって>


<かわいいアチャ子みたーい>



 目に入った画面に、コメントが表示されていた。


 私はそっと、端末の蓋を閉じる。



 私は優秀なVダン冒険者なので、リアダンの招待も来てる。


 Vダンはシミュレーターなので、そこで強い=リアダンでも強い、らしい。


 Vダンで目覚めたスキルは、リアダンでも使える、らしいんだけど……。



 首を回して、右を向く。


 姿見が、ある。


 そこに映る……貧相な、私。



 高校生にもなって、ちっとも育ってない寸胴体型。


 不健康そうな肌。荒れた髪。


 ダサスウェット上下が、ほどよく似合っている。



 学校は行ってるけど、ほとんど引きこもりだもんね私……。


 生活が印象に全力で出てるわ。


 控えめに言って、我ながらブサイクでダサくてキモい。



(こんなんでリアダン行ったら、スキル使えなくて死んじゃうって)



 あのスキルは、注目を集めないと発動しない。


 より正しくは。


 誰かに「かわいい」って思ってもらえないと使えない。



 私、スキルに攻撃と防御を依存してるから……あれがないと、無理だ。


 リアダンは普通に、死んじゃったりも、するらしいし。



 でも、Vダンは。


 追加のコンテンツも配信されないし。


 人もいなくて……つまんない。



 もっともっと、冒険、したかったのに。


 どうしよう。



「お」



 考え事してたら、おなかが盛大になった。



「…………こういうときは、あまいもの、だよね」




 ◇ ◇ ◇




 おうちの中にはちょうどいいのがなくて、ふらふらと深夜のコンビニまで来て。


 新作のピスタチオスイーツに、つい手が出た。


 店員さんしかいない店内でさっと味わって出ると……家を出るときより、さらに外は冷えていた。



 ……たぶん外の気温じゃなくって、アイス食べた私の体温が下がったんだけどね。


 それにしても、人気ひとけがまったくないなあ。


 普段は深夜でも、ちらほら人がいるもんなんだけど。



 静かで、やっぱりちょっと肌寒い。


  

(そうだ。ココアを飲もう)



 迎え甘いものをしようと、ふらふらと自販機の光に吸い寄せられる。


 ふふふ。私は小金持ちなのだ。甘いものだって、摂るときはがっつり摂るのだぜ。



 ホットココアのボタンを押して、カードをかざそうとして……私は固まった。


 自販機の横の影に、人が、いる。



「ヒッ」



 つい出そうになった声を、口をふさいで抑える。


 それでも相手には聞こえてしまったのか、体育座りをしていたその人は、顔を上げた。



(あれ?)



 私はその人の顔、というよりその服……いや、を見て。



「プリアックス!?」



 思わず、声をあげていた。

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