カワイイで強くなるダンジョン配信~いいねと衣装で可憐降誕!カワイイオー!~
れとると
可憐爆誕・カワイイオー
第1話 アバター→コスプレ☆魔法少女!
第1節 配信少女、魔法少女を拾う
『『『『フシュゥゥゥゥゥゥゥ』』』』
まだ少し遠いのに、息を吐く音がここまで聞こえる。
四つの首を持ち、仁王立ちになったクマのような、化け物。
撃破報告も、公式情報にもないレアボス。私も、過去に何度も挑んでる。
せっかくだしと、探し回った甲斐があった。
今回は十分な装備も持ち込んだ。一気に――――決着をつけよう。
<さすが人喰ってそうなクマ、迫力あるぅ>
<アチャ子がんばえー>
<いやよゆーでしょよゆー>
目の
私がダンジョンで戦う様子は、動画配信されてる。
コメントがリアルタイムで見れるんだけど……気が抜けるなぁ。
『グワゥ!』
よそ見してたら、首が一本
私は後方にひょいっと、宙がえりする。
クマの首が地面にめり込んで、
手に持っていた矢の束を空中で放り投げて、私は一言。
「応援、よろしく!」
<かわいい!><がんばって!><かわよ><太ももえっろ><かわいー!>
コメントがガーっと流れて。
私から緑の光が
力が
<――――
システムメッセージが流れきる前に、私はクマの頭に立った。
そして、あらかじめセットしておいた魔術をクイック起動する。
「【ライトニング・プラズマ】!」
ライトニング・プラズマは、拡散する雷光の魔術。
物体に
威力が非常に大きい……ただ欠点も小さくない。
かなり広範囲に飛び散るので、狙って当てることが難しい。
それどころか、普通に使うと自爆する、のだけど。
「いけ!」
目に痛いくらい雷光が光り輝き、獣が黒く焦げていく。
だけどクマの頭に乗ってる私は、感電することもない。
私の謎のスキルは……注目を集めると、攻撃を当てやすくなる、というもの。
同時に、私への攻撃は当たらなくなる。
<HPバーの減りえっぐ>
<一撃じゃないのこれ>
そりゃバラまいた『月神の矢』は、一本でもエンドコンテンツの敵が消し飛ぶやつだもの。
それに魔術までかけて、
クマはぼふんと音を立て、完全な炭になった。
<すっご>
<さすかわアチャ子!>
<今日もよゆーだったね!>
またコメントが流れる。
首をもぐと第二形態になるとか。
見えない即死攻撃が飛んでくるとか、噂はあったけど。
終わってみれば呆気ないなぁ。
ん? 倒したのにドロップ品が出ないな……なんて割に合わない。
ま、記念討伐みたいなもんだから、良いけどさ。
私はコメントの表示されてる方に、笑顔を――作って向けた。
「みんな、ありがとー!」
◇ ◇ ◇
そして重い
天然洞窟だった景色は、雑然とした私の部屋に変わる。
テーブルにゴーグルを置いた。脇には、無線で繋がってる専用端末。
私は座椅子の背もたれに背中を押し付けて、思いっきり伸びをした。
たまにはと思ってVダン――バーチャルダンジョンに潜って配信して、みたけど。
やっぱり、人が全然いない。
「そりゃみんなリアダン行ってるもんね……」
ダンジョンってものが、この現代日本にはある。
でき始めてすぐ、モンスターが外に出るからって、政府が管理しだしたけど。
そのあと作られたのが、ダンジョンシミュレーター。通称Vダン。
本物のダンジョンを体験できるって触れ込みで、そりゃあもう流行った。
私も端末を両親にせがんで買ってもらって、もう何年もやり続けてる。
トップ勢に混ざって攻略し、配信して人気者にもなった。
作り込んだアバターで潜るVダンは本当に楽しくて。
なりたい自分になれているみたいで、夢のようだった。
「それももう終わり、か」
しかし昨年、本物のダンジョンが解禁された。
Vダンに飽き始めていた人たちは、みんなそっちに流れた。
私の冒険仲間もみーんな行ってしまった。
<アチャ子はリアダンいかないのー?>
<ぜったいあっちでも強いって>
<かわいいアチャ子みたーい>
目に入った画面に、コメントが表示されていた。
私はそっと、端末の蓋を閉じる。
私は優秀なVダン冒険者なので、リアダンの招待も来てる。
Vダンはシミュレーターなので、そこで強い=リアダンでも強い、らしい。
Vダンで目覚めたスキルは、リアダンでも使える、らしいんだけど……。
首を回して、右を向く。
姿見が、ある。
そこに映る……貧相な、私。
高校生にもなって、ちっとも育ってない寸胴体型。
不健康そうな肌。荒れた髪。
ダサスウェット上下が、ほどよく似合っている。
学校は行ってるけど、ほとんど引きこもりだもんね私……。
生活が印象に全力で出てるわ。
控えめに言って、我ながらブサイクでダサくてキモい。
(こんなんでリアダン行ったら、スキル使えなくて死んじゃうって)
あのスキルは、注目を集めないと発動しない。
より正しくは。
誰かに「かわいい」って思ってもらえないと使えない。
私、スキルに攻撃と防御を依存してるから……あれがないと、無理だ。
リアダンは普通に、死んじゃったりも、するらしいし。
でも、Vダンは。
追加のコンテンツも配信されないし。
人もいなくて……つまんない。
もっともっと、冒険、したかったのに。
どうしよう。
「お」
考え事してたら、おなかが盛大になった。
「…………こういうときは、あまいもの、だよね」
◇ ◇ ◇
おうちの中にはちょうどいいのがなくて、ふらふらと深夜のコンビニまで来て。
新作のピスタチオスイーツに、つい手が出た。
店員さんしかいない店内でさっと味わって出ると……家を出るときより、さらに外は冷えていた。
……たぶん外の気温じゃなくって、アイス食べた私の体温が下がったんだけどね。
それにしても、
普段は深夜でも、ちらほら人がいるもんなんだけど。
静かで、やっぱりちょっと肌寒い。
(そうだ。ココアを飲もう)
迎え甘いものをしようと、ふらふらと自販機の光に吸い寄せられる。
ふふふ。私は小金持ちなのだ。甘いものだって、摂るときはがっつり摂るのだぜ。
ホットココアのボタンを押して、カードをかざそうとして……私は固まった。
自販機の横の影に、人が、いる。
「ヒッ」
つい出そうになった声を、口を
それでも相手には聞こえてしまったのか、体育座りをしていたその人は、顔を上げた。
(あれ?)
私はその人の顔、というよりその服……いや、
「プリアックス!?」
思わず、声をあげていた。
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