白夜
猫目じろ
プロローグ
夜が明けたとて、この身は朽ちるだろう。
夜が明けたとて、悲しみは消えぬだろう。
夜が明けたとて、罪は消えぬだろう。
夜が明けたとて、あの子は帰らない。
光が全てを無で包むだけだ。
消えゆく意識の中、思い出すのは我が子の事ばかりだった。
自分の身を守るためにあの子を置き去りにした。
仕方がなかった。
あの若い雄も、他に食べる物が無く、体が小さく非力な我が子を狙うほか無かったのだ。
必死で我が子を守るために抵抗したが、あのままでは私が喰われていた。
この氷の大地では珍しくもない。よくある光景だ。皆、生きるために、食うために、必死なのだ。
それが今はどうだ。アザラシはおろか、水鳥の1匹すら見つけられず果てようとしている。
こんな事ならば我が身を呈してあの子だけでも逃がしてやれば良かった。
せめて最期に星が見たいと思った。薄明るい光が辺りを照らしていた。
我が子を見捨てた罰か。
最後の望みすら叶わないのか。
目を閉じ、我が子の白い被毛を、黒くつぶらな瞳を、丸くて可愛らしい耳を、思い出しながら二度と覚めぬであろう眠りへと落ちて行った。
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