ハリネズミのハリー第2話

@peacetohanage

第1話

オープン前の店先で、ハリネズミのハリーはチョークを握りしめています。

今し方、今日のおすすめメニューを書き終えた所でした。

今日のおすすめメニューはふんわりふわふわオムレツです。

「やぁ!ハリーさん、今日も精が出ますな?」

「やぁ、ハリーさん!調子はどうかしら?」

カフェの前を行き交う生き物達は、そうやって口々にハリーに呼び掛けます。

「やぁ!後で食べに来てみてよ?」

「やぁ、今日もまずまずかな?」

なんて、ハリーはそんな風に応えていました。

「何てこった!もうオープン時間を一分も過ぎている。早く店に戻らなくちゃ!」

ハリーはとげとげ急いで店内に戻ります。


ハリーがとげとげいつもの所定位置に立ち尽くすと、束の間玄関の鐘が鳴りました。

カランコロン!

ハリーが玄関を見やると、そこには常連の犬の姿が有りました。

「やぁ、ハリー!今日はオムレツなんだね?グッドタイミング。今日は朝から君のオムレツが食べたいと思っていたんだ」

犬はチョッキを正しながら、ハリーに近付いて来ます。

「いらっしゃい!さぁ、好きな椅子に座って?」

ハリーが促すと、犬は取り分けお気に入りの肘掛け椅子に座りました。

「ふんわりふわふわオムレツを一つ!」

「はい、ただ今作るからね?」

ハリーはボウルに幾つかの卵を割り入れます。

「フランスではオムレツを使ったことわざが有るのさ?卵を割らずしてオムレツを作る事は出来ない…すなわち、多少の犠牲を払わずして物事は成し得ない、と言う意味だ」

さすがはハリーだと犬は両腕を組みます。

「僕が卵を割るのが苦手だって、よく分かったね?」

ハリーは指先を振って悪戯に笑い返します。

続いて鉄のフライパンを持ち出すと、バターを溶かしてテカテカにならしました。

「何故オムレツが生まれたのだと思う?」

ハリーは料理を続けながら尋ねます。

「ある日誰かさんが飼っていた鶏が、一度に十個も卵を生んでしまったのさ!一気に使い切らなければならないものね」

「そうじゃないよ?昔フランスの王様が『何でも良いから早く作って!』と言った時に生まれたのがオムレツさ。そう!話しをしている内にもう、ほらね?」

ハリーが見せた手の上の皿には、完成したばかりの熱々のオムレツが黄金色に輝いています。

まるで太陽がくしゃりとはにかんでいるみたいでした。

ハリーは早速犬が座り待つ席へと運びます。

犬は両掌を擦り合わせて舌舐めずりをしながら、スタンバイはとうに万全でした。

「さぁ、たんと召し上がれ!」

「どうも、ありがとう!それじゃ頂きます」


犬が今日も大満足だったよ!と言ってお別れをしてしまった後、ハリーは皿を洗ったりテーブルを拭いたりして、次のお客に備えました。

今まさに店先の黒板を、トカゲの郵便屋さんが覗き込んでいますからね?

「そろそろバターをもう一切れならしておこうかな…」

ほうら、やっぱり!

郵便屋さんは仕事の途中でしたが、空腹に負けたのか玄関扉を押し開けました。

開口一番「ふんわりふわふわオムレツを一つ!」

「はい、ただ今作りますからね?」と二つ返事のハリー。


おわり

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