小さな話たち
有馬アキラ
空飛ぶ猫と盲目の少女
とある村の昔話。
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小さな山間の村に、心優しい盲目の少女が一人で住んでいました。
彼女の名前はユイと言いました。
彼女は、生まれつき目が見えませんでした。その代わりに、耳が非常に良く、小鳥のさえずりや川のせせらぎを美しい音楽のように感じていました。ユイの世界は、見えないけれども、聞こえるもので満たされていたのです。
ある春の日、ユイの家の庭に、一匹の不思議な猫が現れました。
その猫は、普通の猫とは違い、小さな羽が生えていました。村の人たちは、とても驚きましたが、なんとも人懐っこい猫で、気づいたら、村の一員になっていました。
その猫はソラと名付けられました。
羽の生えた猫、ソラは、普通の猫とは違い、空を飛ぶ魔法を使える特別な存在でした。最初は、初めて感じる変わった生き物の気配に警戒心を持っていたユイでしたが、ソラの優しい鳴き声と、飛ぶ時に生じるふわりとした風の音に心を引かれ、徐々に打ち解けていきました。
ユイには見えないソラの魔法の飛行を、彼女は耳で聴き、心で感じていました。彼女はソラが空中でくるりと旋回する音、風を切る羽ばたきの音を聞き分けることができたのです。そして、ソラもまた、ユイの世界がどのように美しいかを理解し始めました。
ある日、庭で佇むユイにソラが提案しました。
「僕と一緒に空を飛びませんか?あなたの耳で、空の音を聴いてみましょう。」
ユイは戸惑いながらも、ソラの背中に抱きつきました。そして、二人は空へと舞い上がりました。
空を飛ぶ感覚は、ユイにとって全く新しい体験でした。
高く上がるにつれて、風の音が変わり、鳥たちのさえずりがよりはっきりと聞こえてきました。ユイは感動のあまり、涙をこぼしました。ソラは優しく彼女を支えながら、村の上空をゆっくりと飛び続けました。
村を見下ろすと、ユイはいつもとは違う音の世界を感じ取りました。彼女の耳には、遠くの牧場から聞こえる羊の鳴き声や、村人たちの笑い声が届きました。これまで彼女が感じたことのない、新しい音の風景が広がっていたのです。
高い空から降りてくると、ユイは村の子供たちに囲まれました。
彼らはユイとソラの冒険話を興奮して聞き、ソラの魔法に驚きと憧れの目を向けました。ユイは子供たちに、空の上の世界がどんなに美しいかを詳しく説明しました。彼女の言葉には、目で見ることのできない、でも心で感じることのできる世界がありました。
その後も、ソラとユイはたびたび空の散歩を楽しみました。ソラはユイに空中での新しい体験を提供し、ユイはソラに地上の音の美しさを教えました。
二人は、お互いの世界を共有することで、新しい発見と喜びを見つけ続けました。
季節は移り変わり、秋が訪れると、ユイとソラは落ち葉が舞い落ちる音を聴きながら、一緒に庭で過ごしました。
ユイは落ち葉の一枚一枚が地面に触れる繊細な音を聞き、ソラは空から見た秋の景色をユイに話しました。
冬が来ると、雪の静けさが二人の心を落ち着かせました。
ユイは雪の中でソラの足跡の音を聞き分けることができ、ソラは雪の上を軽やかに飛び回ることで、ユイに新しい冬の楽しみ方を教えました。
春が再び訪れると、二人は新しい命の息吹を感じました。
鳥たちの歌が再び賑やかになり、花々が開花する音が庭に満ちました。
ユイは、ソラと一緒に花の香りを楽しみ、彼女の耳で花々の成長を感じ取っていました。ソラは、花の上を飛びながら、ユイにそれぞれの花の色や形を詳しく説明しました。ユイはソラの言葉を通じて、目に見えない美しい春の景色を心に描いていました。
ある日、ユイはソラに自分のために特別な音楽会を開いてくれるよう頼みました。
ソラはユイのために、村中の鳥たちを集め、美しいコンサートを開催しました。ユイはその音楽会で、鳥たちの歌声とソラの優しい鳴き声を聞きながら、心からの喜びを感じました。
夏が来ると、ユイとソラは夜空を飛び、輝く星々を見上げました。
ソラは星々の名前と物語をユイに教え、ユイは星々の煌めきを耳で感じ取りました。二人は、星々が奏でる宇宙のハーモニーを一緒に聴いて、無限の想像を膨らませました。
年月が流れ、ユイとソラの友情はさらに深まりました。
ユイはソラから、見えない世界の美しさを教わり、ソラはユイから、聞こえる世界の豊かさを学びました。二人は互いの存在を通じて、人生の多様性と奥深さを理解し、共に成長していきました。
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こうして、ユイとソラの物語は、時を超えて語り継がれることになりました。
村では、晴れた日の夜に空を見上げると、小さな二つの影が見えることがあるそうです。
それを見た人たちは、幸せになれるそうです。
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