放たれた猛禽

第74話:軽薄失礼銀髪男

 樹液を摂取してリフレッシュした僕は次の日も溌剌とした気分で山を進んで行った。

 時たま樹脂を採取して口に入れているけれど、ソラナ以外の人にバレた気配はない。

 肝心のソラナは「仕方がないなぁ」みたいな顔をするくらいで、特に気持ち悪がっている様子もなさそうなので、そのまま甘えさせてもらうことにした。


 二日目もそれなりに山を進んだのだけれど、魔物の気配はほとんどなく戦闘も起きなかった。

 おかげで進行はスムーズだがこの山に慣れているカルディアさんとシュッケさんは違和感を持っているようだ。


「ねぇ、シュッケ。こんなに魔物が出ないことってこれまでにあったっけ?」


「うーん。多分ないと思う。戦わないまでも見かけることは多いと思うんだけれど、ケイダくんに探してもらっても魔物自体があんまりいないみたいだからね」


 二人はおかしいと思っているみたいだったけれど、現状ではどうしようもないので奥に進むことになっている。

 確率的に偏る可能性はあるし、僕たちの知らない要因がある可能性もあるからだ。

 魔物がもっといなかったらすぐに引き返すほどの異常だが、探せばいる訳でもあるので判断が難しいようだ。




 そんな感じで調査をしながらも歩き続け、そろそろ中間地点だという場所に来た時、僕たちは人を見かけた。

 僕たちとは反対側から男女混じった六人の人が歩いてきたのだ。


「シュッケ、ミマツがいる。あれは『当意即妙』だ」


「……ほんとだ。ケイダくん、ソラナちゃん。多分不快な思いをすると思うけれど気にしちゃダメだよ? そういう人だから」


 カルディアさん達が小声でそんな風に言ってきたのでどうしたのだろうと思っていると、先頭にいた背の高い男がこっちにやってきた。

 そして二人が言っていた意味が一瞬で分かってしまった。


「あれぇ? そこにいるのは『桃花』のお二人じゃないですかぁ。お会いできて光栄ですぅ。今日は子供二人を護衛ですか……。それはそれは労力のかからそうな良い仕事ですねぇ」


 表情の作り方が完璧にこちらをバカにしていて、一瞬でイラッっとしてしまった。

 話し方も何だか気に触る。なんだこの人。


「よう、ミマツ! 相変わらず何言っているのか全く分からないが、元気そうで安心したよ。それにしてもお前の目は今日も変わらず曇っているようだな。この二人は冒険者だ。片方はまぁまだ登録してないが実力は十分だし、こっちの男はここにいる誰よりも強いぞ」


 カルディアさんは突然目の前の男を煽り出した。

 この人の名前がミマツのようだ。


「こいつが最強? カルディアさんもちょっとお年を召しすぎてしまったようですねぇ。やっとの思いでB級に昇格された後で恐縮ですがそろそろ引退を考えてはいかがですかぁ?」


「はっはっは。そんな老ぼれにいつまで経っても追いつけない若者が何を言っても負け惜しみにしか聞こえないなぁ。ミマツ君の歳のときには、私達はもうB級になっていたけれど、君はまだC級だもんねぇ。そこのケイダはもうすでにD級だからすぐに追い抜かれちゃうんじゃないかな。バカにした子供に抜かれる気持ちがどうだったか後で教えてな? きっと君は昇格できないだろうから!」


 カルディアさんとミマツはお互いを煽りながら不毛な争いを繰り広げている。

 僕はそれに巻き込まれた形だ。

 カルディアさんが僕のことを引き合いに出したおかげで、なぜか僕も睨まれてしまっている。


 目線を外して他の人の方を見ると、シュッケさんとソラナがミマツ以外の人たちの方に行って話をしている。

 あっちはかなり友好的な様子だし、二人いる女性がシュッケさんに何度も頭を下げている。


「おい、地味焦茶ぁ。お前、剣士には見えないし、もしかして魔法使いなのか?」

  

 ミマツがそんな風に言ってきた。地味焦茶っていうのは多分僕のことなんだけれど、酷くない?

 いや言う通りなんだけどさ……。


「軽薄失礼銀髪、ケイダを困らせるんじゃない。ケイダは魔法使いだが身体能力は高いぞ? ぷぷっ。もしかしたら失礼くんは負けちゃうかもしれないなぁ」


 僕とミマツの間にカルディアさんが入り込んで助けてくれた。と思ったんだけど、なんかむしろ煽っていた。

 っていうか顔を見るにカルディアさんは完全に楽しんでいると思う。


 それとそのミマツなんだけど、ムカつくことに見た目は結構格好良いのだ。

 銀髪をちょっと長めに垂らしていて、身長もすらっと高い。長剣を腰に携えているから剣士なんだろう。

 煽るたびに顔を歪ませるし、話し方がねちっこいからそんなにモテないと思うけれど、結構格好良いのだ。悔しいことに。


 カルディアさんの返しにミマツがなんと答えるのかと見ていたら、茶髪を縛った女性が横からやってきてミマツの頭を引っ叩いたのだ。


「痛っ! おい、ユミータ、何するんだよ!」


「カルディアさん、ケイダさん。すみません。気分を害してしまったかもしれませんがミマツは病気みたいなものなので、許していただけないでしょうか」


 そしてミマツが色々と言っているのを無視して僕たちの方に向き直り、慇懃な様子で頭を下げた。

 ちょっと小さめな体付きで内股気味に立っているのがなんかすごい女の子っぽい。

 ミマツの仲間ということは僕より年上かもしれないですけどね。


「ユミータ、私は慣れているから問題ない。だけど、初対面のケイダにはちょっと刺激が強かったかもしれないな」


「い、いえ……僕も大丈夫です」


 本当は結構イラついたんだけれど、ユミータさんのいじましさを感じて何も言うことができなかった。

 決してちょっと可愛いかもと思ったとかそう言うわけではない。


 ユミータさんは「ありがとうございます」と言って、ミマツの腕を引っ張っていった。

 入れ違いにシュッケさんとソラナがこっちに戻ってきた。


「カルディアちゃん。いまルーシーちゃんとバラックに詳しい話を聞いてきたんだけど、どうやら面倒なことになっているみたい。ユミータちゃんがコマンドホークを見たんだって……」


 さっきまで朗らかな様子だったシュッケさんはその話を聞いて、表情を一変させた。

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