第71話:ハーレムパーティに見えるかな?
ウルト山地に入ったあと、僕の狙撃能力を見せるために猪を狩るとカルディアさんは興奮し、僕を称賛してくれた。
「ケイダさん⋯⋯あなたすごい方だったんですね」
「ケイダくん、すごい魔力だったね!」
僕が乗っていた枝よりも少し下にいたシュッケさんとソラナも僕を褒めてくれる。
美人の女性三人に囲まれてチヤホヤされる状況に僕は気を良くしたけれど、こういう時にどうしたら良いのか分からなかったので、「ありがとうございます」とだけ言うにとどまった。
いま気づいたけれど、女性三人に男一人ってハーレムパーティみたいじゃない?
物語で読んで憧れたものだけれど、いまの僕って周りから見たら結構羨ましい境遇なんじゃないだろうか⋯⋯。
僕たちはそのまま登っていた木を降りて、僕が仕留めた猪の元に歩いていく。
その時、なぜかソラナは僕の服の袖を掴んでいた。
歩くのが早いのかなと思って速度を落としたんだけれど、掴んだままだったのでそのまま進んで行った。
「あ、あそこで倒れてますね」
見覚えのある木が見えてきたので、注意深く探すと猪が倒れているのが見えた。
撃った後にも確認していたけれど、やっぱり猪は死んでいるようだ。
「やっぱりウォルトホッグだったな」
カルディアさんはそう言って横たわっている猪に近づいた。
ソラナとシュッケさんもそれに続く。
みんな解体用のナイフを出しているので、必要な分をとりわけて今日以降のご飯にするのかもしれない。
「凄まじい魔法だ……。この目で見ていたのにあそこからここまで攻撃を届かせたというのが信じられない気持ちだよ。しかも、傷跡がかなりきれいだ」
「魔法が全く拡散しておらず、精度も高いですね。私たちの目には魔物がいるなんて分からなかったのに、それを見つけるだけではなくしっかり命中させて、一撃で仕留めたのですから……」
カルディアさんとシュッケさんは猪の体を起こしながら傷跡を見て僕を褒めてくれている。
やや驚きの気持ちが込められているようだけれど、冷静な分析だ。
「やっぱりケイダくんはすごいです!」
ソラナはそんな二人の評価を聞いて、嬉しそうだ。
僕が褒められるのが彼女も嬉しいんだろうか……まぁ、自分の護衛の評価が高くて悪い気持ちはしないんだろう。
それから三人は色々と話をしながら驚くべきスピードで猪の皮を剥ぎ、内臓を取り出して肉に切り分けてしまった。
四人で苦労なく運べる程度の量なので取った部位はあまり多くなさそうだ。
残った部位に関してはすぐに処分してしまった方が良いとカルディアさんが言うと、ソラナがリュックから小さいスコップを取り出した。
「私が魔法で燃やしますので廃棄する部分はここに集めてください」
「分かった。だが、魔力は大丈夫か?」
「はい。私は生まれつき魔力が多い方なので問題ありません。シュッケさんは戦いのために魔力を残しておいた方が良いと思いますし、私にやらせてください」
そう言うソラナを見て、お二人は頷いた。ソラナに任せることにしたようだ。
ちなみに僕はといえば、機敏に働くお三方の動きをぼけっと突っ立って見ているだけだ。
一応獲物を狩ることに貢献したから解体の方は免除してくれているのかもしれない。まぁ、僕があそこに参加しても足を引っ張るだけなんだけどね……。
「じゃあせっかくだからここで下拵えしちゃうね。ソラナちゃんにはその後に処分してもらおうかな。すぐ終わるからちょっと待っててね」
シュッケさんは取り分けた肉の塊に向けてナイフをぶっ刺した。
顔がにこやかなのが却って猟奇的に見えちゃうんだけど、多分僕の考えすぎだと思う。
シュッケさんはリュックから小さい皮袋みたいなものを四つ取り出して地面においた。
そして同じくリュックから取り出した塩を肉にまぶし、香辛料っぽい粉も念入りに塗り込んだ。
「そんなに時間もないし、これくらいにしちゃうね」
そう言った後で地面に置いてあった袋に手をかざすと、巾着くらいの大きさしかなかった袋がスーパーの袋くらいまで大きくなった。
どうやらあの袋も魔道具みたいだ。
この小さくできるテクノロジーはすごく便利なので、持っていると利便性は高そうだ。
お値段のことは知りません。
シュッケさんは下拵えをした肉を袋に入れて、リュックに入れようとしていた。
合計で四つの大きな袋ができたことになるが、どれもそれなりの重さだと思う。
「僕が多めに持ちますよ。みなさんよりは力もあると思いますし……」
そう言うとシュッケさんもカルディアさんもニッコリ笑ってくれた。
幼虫期からの鬼の訓練で僕の身体強化度はかなり高いらしいので、前世とは違って今世では力持ちだ。
魔力量も桁違いに多いとソラナやロルスさんに言われているし、多少重いものを持ったくらいではなんともない。
「処分するのはこれが全部で良いですか?」
僕が肉袋を自分のリュックに入れようとしているとソラナの声が聞こえてきた。
ソラナの目の前には猪の皮や筋、あとはいらない部分の骨肉が集められている。
カルディアさんとシュッケさんが興味ありげに見ているので、僕も見学させてもらうことにした。
二人で旅している時に何度も見たから珍しくはないんだけれど何となく。
僕たちの顔を見回した後で、ソラナは手を肉たちに向けて火の魔法を放った。
ソラナの火の魔法はファイアボールと名付けられそうだ。
火の玉がぶつかると肉や骨は『ジュウウ』を音を立てて焼け、一瞬にして灰になってしまった。
最初に見ていた時は「焼肉だぁ」とか思っていたんだけれど、今ではなんとも思わなくなってしまった。
処分の時は焼けた匂いもほとんどしないし、後でソラナが美味しい料理を出してくれると分かったのも大きいと思う。
そんな感じで僕はいつも通りだと思ってソラナが廃棄物を処理する様子を眺めていたんだけれど、カルディアさんとシュッケさんにとってはそうではなかったようだ。
「ねぇ、カルディアちゃん……」
「あぁ…………」
「「威力が強い!」」
え、そうなの?
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