白野 音

エンビィ

 好きだった。好きだったからこそ辛かった。会えないのが、話せないのが、拒否されるのが嫌だった。耐えられなかった。

 警察のサイレンが鳴っている。見つけてほしかった、この状況を。誰かに止めてほしかった、いや、誰かじゃなくて君に止めてほしかった。


 もう決めたんだ。キリキリと紐が首を絞める。良かった、きっとこれが幸せだった。目を閉じる。


 ガシャっと音を立てて俺は宙に浮いた。



 目が覚めた。俺は首を自分で絞めた。だから覚めるわけはなかった。ポケットからスマホを取り出すと時間は自殺をする1時間前を示している。

 夢を見ていたんだと気付いた。ここにある自殺の荷物を準備するのは大変で、持ち込むのに疲れて値落ちしてしまったんだろう。

 ラインを開いて彼女との会話を見る。今日でもう3週間は会話をしていなかった。きっと俺はいらないんだろう。見た目も普通で金もない、そんな学生じゃ嫌なんだろう。彼女以外からもラインが来ている。ゲームのグループに5件、高校の友達から2件、たくさんの公式アカウントから色々。

 SNSも開く。彼女のSNSは更新されていた。友達と出かけたのであろう中華の写真が載せられていた。


 なんかもう、疲れてしまった。友達のほうが大事なんだ。目の奥が銃口のようにバチバチする。前までは誰かといても良かった。でも今は俺とだけいて欲しかった。好きだった。好きだったからこそ辛かった。

 ラインを何件か送った。でも既読は付かなかった。来ないことは分かっていたハズなのに希望を持ってしまう自分に嫌気が差す。でもあとちょっとだけ待ってみよう、待ってみたらもしかしたら返信が来るかもしれない。


 夢でみたのと同じだった。もう返信なんか来ねえよって外でサイレンが鳴っている。うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。

 うざいうざいうざいうざいうざい。全部消えればいいんだ。俺もお前らも、彼女に近い人間は死ねばいんだ。俺以外が死ねば解決するんだ。俺以外が死ねばいいんだ!!


 涙が止まらなかった。怖かった。そんなことを思っている俺自身が嫌だった。嫌なヤツすぎて死にたかった。

 こうなっている状況を止めてほしかった。

 君に止めてほしかった。

 君だけに止めてほしかった。

 君にあいたかった。


 紐が徐々に首の肉を締めていく。心地よかった。ようやく終わるってそう思えたら幸せだった。君に会えないのだけが未練だけど、それでも良かった。君の心に残れるならそれはそれで満足な気分になった。そっと目を閉じる。


 天使が持ち上げてくれるような、エレベーターに乗っているような感覚だった。自然と苦しくはなかった。

 サイレンの音が止まった。



 

 

 目が覚めた。

 それも首に紐をかけようとしている状態のようだった。涙の後で顔が少し乾いている感じがした。

 自殺は成功したんだ。2回夢なんてのはツマラナイ。

 ツマラナイなんてもんじゃない、死にたくないんじゃないかってすら思えてしまう。

 サイレンの音がする。

 首の紐が徐々に短くなる。身体がどんどん軽くなる。力が抜けていく。紐がどんどんキツくなっていく。

 君にもらったネックレスだけが光った。





 目が覚めた。

 紐をかけた。

 目を瞑った。

 体が浮いた。




 目が覚めた。

 首を締めた。

 命を止めた。


 

 目が覚めた。

 自殺をした。


 目が覚める。

 自殺をする。

 目が覚める。 自殺をする。

 目が覚める。 自殺をする。 目が覚める。 自殺をする。

 目が覚める。 自殺をする。 目が覚める。 自殺をする。 目が覚める。 自殺をする。自殺をする。自殺をする。自殺をする。自殺をする。自殺を。自殺を。自殺を。自殺を。自殺を。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。自殺。




 スマホが光った。

 「今日会いたい」




 俺はもう光らなくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白野 音 @Hiai237

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ