【5000PV突破】黒髪の美少女ですが、繰り上がりで魔王になったので徹底的に魔界を改造しようと思います

第1話 魔王死す

 山々に抱かれ、自然が息づくルナティカという村に、私の屋敷はそびえ立つ。

 3年前、父である魔王グリフォニウスに命じられてこの地に統治者として赴任した。

 有能な兄上達と比べ、私は戦いを得意とせず、そのために王都から遠い地方の統治を任されたのだろう。


 最初は嫌だった地方赴任だったが、遠くの山々が夕陽に染まり、その美しい景色を眺めながら口に運ぶケーキは、まるで自然そのものの甘さが広がっていくような絶品の味わいだ。

 仕事を終えたあとの唯一の楽しみと言ってもいいかもしれない。


「グロリア様、このチーズケーキは絶品と評判ですよ。この村で取れたチーズを使っているから当たり前ですけど」


 私と向かいの席でケーキを食べているのは、村長の娘、セリアナだ。

 見た目は可憐な女子だが、村内でも有数の剣術と弓術の達人として知られていた。


 同い年の女性ということで、他愛もない話をしながらケーキを食べるのが日課となっている。

 立場の違いはあるものの、親友だと私は思っている。


「もちろん知っているわよ。この村のチーズを使ったケーキは本当に絶品だから、魔界中に広がるといいわね」


 私はケーキにフォークを入れた。

 一口食べると、濃厚なクリームチーズの味わいが口いっぱいに広がってくる。

 甘さはちょうどよく、後味に広がるバニラの風味が絶妙。ベースのクラストもサクサクしており、全体のバランスが本当に素晴らしい。


「ルナティカの名物になったら素敵ですね。ところでグロリア様、ガイランドってかっこいいと思いません?」


「セリアナはああいう感じのゴツい男が好みなんだ~。ちょっと意外かも」


 ガイランドは村の衛兵をしている。

 長身でイケメンだとは思うけど、セリアナより弱いんだよな……。


 私とセリアナの女子会が恋バナで盛り上がっていたとき、噂のガイランドが屋敷に駆け込んできた。


「殿下、火急の報告があります!」


 ガイランドが真っ青な顔をしている。

 それだけで大変な事が起こっていることが理解できる。


「ガイランド、何があったの?」


「今しがた王都から連絡がありまして……。父君……グリフォニウス陛下が亡くなられたそうです」


「それは、本当なのですか?」


「はい、間違いないようです。人間界の勇者セリオス一行との戦いで戦死なされたとのこと。王都の損害は激しく、壊滅的な被害を出しているそうです」


 人間界と我らの住む魔界は5年前から戦争状態となっていた。

 先に侵攻を開始したのは魔界側だったので序盤は優勢となっていたのだが、3年前に勇者一行が現れた頃から次第に戦況が悪くなったとは聞いていた。


 しかし、我が父、魔王グリフォニウスは魔王に相応しい、本当に強い男だったのだ。

 その父が人間の勇者に敗れるとは、私にはどうしても信じることができなかった。


「そんなバカな。父上が敗れるなど、あろうはずがない!」


「報告によれば、人間界の勇者一行は王都まで一気に攻め滅ぼしたのだそうです。陛下の親衛隊も全く歯が立たなかったそうなので、とんでもないバケモノなのかもしれません」


「なんということでしょう……私は何も知らず、王都から離れたこの村で毎日ティータイムを楽しんでいたというのか……」


 『知らないということ』はなんと罪深いことなのだろう。

 私が毎日ケーキに舌鼓を打っていたその頃、王都は勇者一行によって蹂躙されていたなんて……。


 私は目の前が一瞬にして真っ暗になり、心の中に深い暗闇が広がるのを感じた。


「セリアナ、ガイランド……私はどうしたらいいの……」


「お心を強く持ってください。まずは情報を集め、スカーレット殿の帰還を待ちましょう」


「スカーレット……こんな大事な時にいないなんて……」


 スカーレットは、私と共ににルナティカへ赴任してきた側近だ。

 真面目が服を来ているような人物だが、頭の回転も早く、実務能力も高い。

 現在は王都に近い都市へ使者として出張している。


 私はスカーレットの帰還に望みを賭けた。

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