密書信

高麗楼*鶏林書笈

第1話

 既に分かっていたことだが、朝廷内は幾つかの派閥に分かれていた。

 このことは、何代か前の王の時代からはじまったようだが、当初は東西の二派に過ぎなかった。それが、時が経つにつれて、それぞれの派閥内部で経書の解釈の違いや年配者と若手、親王と反王…考え方、立場等で分裂し、そして時には結合、連合した。

 彼らが、学問の場や文学創作の場等で競い、対立する分には構わなかった。勝手にしろといったところだ。

 だが、それを政事(まつりごと)の場で行うのだから困ってしまう。いや、彼らにとっては、この場所でなければ意味がないのだ。自分たちの利害はこの場所で決まるのだから。

 考えがここに至った時、彼は無性に腹が立った。

 本来、政事は民のために行うべきことなのだ。なのに自身の利益ばかりを求めるとは。

 ただ、今は憤っている時ではなかった。

 如何に自身の政策を実行して行くかが問題なのだ。そのためには、反対派たちも従わさねばならない。


 一日の仕事を終えた王は、書斎の机の前に座り筆を走らせる。

 反対派の領袖に宛てて書牘(手紙)をしたためているのだ。

 即位後、王は主に反対派の臣下に宛てて直接、書牘を送っている。全て“親展”で内容を他者に漏れないよう秘密にしている。臣下同士で連まないようにするためだ。

 始めは、経書の解釈についての意見交換、詩の応酬程度だったが、徐々に時勢についてや政策に関する意見を問う内容になった。

 この“文通”は王にとって有意義なものになった。各人の考え方や性格等が分かったからである。

 当たり前のことだが、同じ派に属していてもそれぞれ考え方は微妙に異なっている。

 こうしたことを上手く利用して、王は少しづつ自身の政策を進めて行った。

もちろん、全てが順調に行く訳ではなかったが。

 だが、民は日々暮らし向きが良くなっていくことを実感した。

 一部商人が独占的に運営していた都の市場は、自由化され人々が利用しやすくなった。また、地方からは悪徳官吏が追放されて行った。

 書き終えた書牘を王は届けさせた。

 明日は懸案の一つを解決しなくては、王の心は明日の仕事に向かっていった。

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密書信 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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