第十話 証明

 どうして今日に限ってスマホを忘れてしまったのか、見せれば一発で何とかなるのに。未来人である証拠を財布から見せることはできないだろうかと必死に探しながら考えた。そうだ、これなら大丈夫かもしれない!   SUICAを取り出して、警官に見せた。

「これならどうでしょうか?」

「ああ、SUICA? で合ってますか? 首都圏で使えるやつですよね。行ってきた記念に買ったんですか? 名前的にあなたのだという証拠にはなりますがねえ。でも本物初めて見ました。すごいですねこれ!」

 当時はここでは今よりも浸透してないが、すでにSUICAがあったとは……。名前入りのものを準備していてよかった。けどそうじゃない。他の証拠はないだろうか。奇跡的に無かった令和の硬貨がここでは仇となっている。ええと、お札は変わらないし……。


そうだ、これなら!

「これで証明になりますか?」

 警官の前に、複数枚のレシートを提示する。一枚だけサンクスのレシートが入っているが、これも何かの証拠になるだろう。

「ええと、今日のレシートが一つと、あとは二〇二二年? 七月、六月……。レシートを詐称して何の得があるのでしょうか……。」

「得はないです」

「そうですよね、得なんてないですよね。……ってことはこれ、本物ですか⁉」

「あ、はい。これで未来人の証拠になるかと」

 警官が驚いたようにレシートを見つめる。当時と今で変化は無い気がするけれど……。


「──分かりました。あなたが未来人である証明ができたところで、令和? と二〇二二年がよく分からないので、詳しく教えてください。」

「はい、ありがとうございます!」

 まさかレシートで信じてくれるとは思っていなかったが、これで信頼は獲得できた。

「しかし未来が変わってしまう可能性があるので、令和のことはこの件が終わったら忘れてください。」

 それから、二〇二二年に至るまでの多くのことを話した。元号が変わる経緯、多くの災害、技術の発達、そして、マスクをしている理由である「感染症」など。

「え、感染症は現在フジサワさんが持っていたらヤバいことになるんじゃないですか⁉」

「あー、実は先日PCR検査というものを受けて陰性だったんです。職場の店長がかかってしまい、一応検査することになりまして。」

「そうなんですね……。色々聞かせていただきありがとうございました。聞きなれない単語が多くて理解が大変でしたが、あなたの話は作り話にしてはできすぎています。そんな人間が誘拐なんてするはずがないと信じています。

 では最後に、エミさんと会った経緯についてあなたの口からお聞かせください。」

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