第二話 時間

 エミちゃんのお母さんを探しながら、この子が飽きないように会話を頑張っていこう。

「ところで、お父さんはどうしたの?」

「お父さんは今日はおしごとなの。お母さんは昨日おしごとだったよ。」

「そ、そうなんだ……。」

 エミちゃんの親御さんがどんな職業かは気になるが、それはどうでもよかったことに今気づいた。知るべきはエミちゃんの親御さんの職業ではなく、お母さんの居場所だ。

 ……ん? 居場所? ド偏見だが、令和の幼児はGPSとかで子ども用のスマホを持っていてもおかしくはない。あいにく今日はスマホを忘れてきてしまったが、この子は持っているかもしれない。

「ねえエミちゃん、スマホって持ってないかな?」

「すまほ? って、なに?」

 この子の親御さんはガラケー派なのだろうか。幼稚園に通ってなかったら世界はまだ広くは無いし、それなら仕方ない。

「ああ、ならいいや。ケータイ、って持ってないかな?」

「もってないよ。」

「そっか。ありがとう。」

 やはり子どもでも持ってない子はいるか……。確かに見るからにこの子は何も持っていなさそうだし、早く探さなくては。だんだんと元気が無くなっているように見えてきたから。

 二人で歩きだし角を曲がったら、交番があったのに気が付いた。そうだ、警察に相談しよう!

「すみませ……」

【現在パトロール中です】

 おいマジかよ。よりによってこの看板立っているとかタイミング悪すぎる。

「フジサワさん、どうしたの?」

「いや、お巡りさんいなくて。いいや、行こう。」

 そうして歩き始めた時に、また気付いた。大切な事を聞き忘れていたのだ。

「ねえエミちゃん、迷子になった時にお母さんとどこに行ってたの?」

「お母さんとね、“うぬぷらす”のすごいのを見たの……おともお人形さんたちもすごくて……」

「ん?」

 最初は何を言っていたか分からなかったが、少ししてから理解した。ここから散歩がてら行ける距離に、“ウヌプラスモール真明”という商業施設がある。この「真明」という街にあるアーケード街のメインにあるもので、一階の吹き抜け広場の中心にからくり時計がある。でもそのからくり時計は数年前に撤去されたはず──

「ところでフジサワさん、ずっとききたかったんだけど、かぜでもひいてるの? だいじょうぶ?」

「え……?」

 思えばエミちゃんだけでなく、通行人たちもマスクをしていない。暑くても今はしている人が多いはずなのに。

 不思議に懐かしい雰囲気、エミちゃんの話、人の様子。そして交番の掲示板に書かれていた、

【二〇〇七年七月二十四日 今日の交通事故なし】

 どうやらおかしいのは、自分の方だった。

 十五年前の今日に、タイムスリップしていた。

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