第7話 もうすぐ台無し

「ふわぁ~」


 あくびを押さえて外に出ると、そこにはまだ誰もいなかった。

 まぁそりゃそうだ。みんなまだ寝てるだろうしな。


「ん?」


 ふと机のパネルを見ると、「暇だろうから、遊具をオープンしといたよ」とメッセージが表示されていた。


「遊具? オープン?」


 首をかしげていると、続々と他のメンバーも起きてきた。


「ほはひょ~」


 あくびをしながら言う鈴ヶ森。うん、おはよう。

 ええと、1、2、3、……数は……揃っている。


 ――少なくとも、『悪魔』は動いていないってことか。


「早いな小川。……妙な顔をして、どうした?」


 八幡不知が朝を感じさせない理知的な顔つきと、それに似つかわしくない寝癖だらけの頭で言う。


「ああ、なんか遊具がオープンしたとか書いてるが……」


「遊具だぁ?」


 今度は犬鳴峠が眠そうな目で言った。眠そうな目は人のこと言えないけど。


「どこにも見あたらねーぞ」


「まぁ、そうだよな……」


 いつものテーブルの他は、四角いパネルに覆われた壁が昨日と同じままあるだけだ。


「あ、わかったかも~」


 そう言ったのは、朝からバッチリ髪を整えていた泉だ。彼女は壁のパネルに近づくと、そのパネル下端の縁を掴み、一気に引き出した。


「当ったりぃ」


 にぃと笑った彼女の歯から、矯正のブリッジがきらりと光る。


「……いっけね」


 気にしているのか慌てて口元を隠す泉。いや、どっちかと言うと、その素の口調の方を画すべきだったんじゃ……。


「なるほど……引き出しだったわけやな」


 泉が引っ張り出した1メートル四方のそのパネルの裏は、奥行きも1メートル程度の収納になっており、中には確かに色んな遊具が収められていた。


 後ろから見た限り、バドミントンのセットやソフトバレーのボールなどがあるようだ。


「遊具より、他のパネルも開くか調べるべきだろう」


 八幡不知の言うとおりだ。パネルが収納なら、他にも何か入っているかもしれない。


 そんなわけで、全員で手分けしてパネルが開くか確認したところ、反対側のもう一か所だけ開いた。


 そこには、保存食が詰まっていた。乾パンとシリアルを中心に、調理をせずに食べられるものばかりが揃っている。菓子も多い。水はないがコップがいくつかあり、水は部屋から汲めといったところか。


「これを食えゆーことかいな?」


「あっ、『きのこの森』もありますよ! 『たけのこの林』は無いけど当然ですね」


 そうか累ヶ淵はきのこ派か。っていうかたけのこないのかよ……。


「んー、野菜はないんだね……」


 鈴ヶ森は残念そうだが、不満の声を上げるほどではないようだ。まぁ、シリアルにはドライフルーツも入ってるし、ビタミンが足りなくなることはなさそうだが……。


「なんでもいいや、昨日の夜は何も食ってねえから、ハラへったぜ。なんでもいいからオレにも食わせろや」


「待て!」


「ああ?」


 ガンを飛ばす犬鳴峠と、それを涼しい顔で見つめ返す八幡不知。


「……そもそもこれを食べて大丈夫なのか?」


 その言葉に、全員の顔が曇る。


「……毒が入ってるって言いてえのか?」


「かもしれない、だ。こんな所に他人を閉じ込める連中のやること……少なくとも、穴が開いていないかなどは調べるべきだろう」


「さ、さすがぁ……そこまで考えてるんだねえ」


 鈴ヶ森が間の抜けた声で言うが、実際、この場のメンバーはある種の信頼を八幡不知に覚えているように思う。この僅かな時間でリーダーシップを取れるのは、正直に言ってすごいことだ。


 ただ、それは諸刃の剣でもある。もし、八幡不知が『悪魔』なら、言われるがままに動いた結果、メンバーが全滅させられてもおかしくないということだからだ。


 が、そんな八幡不知を憎々しげに睨み返すのが犬鳴峠。


「……フン、気に食わねえな。リーダー気取りかよ」


「ちょ、ちょっとやめましょうよぉ~」


「まぁまぁ」


 険悪な雰囲気になりそうなところを、割って入ったのは金助だった。


「せやったら、ワイが食ってみたるわ」


「お、おい!」


 犬鳴峠すら止めようとしたにも関わらず、金助は構わずシリアルを豪快に口に流し込んだ。


 勢いがつきすぎてむせていたが、その後は急に笑顔で、


「な?」


 と言った。


 何が「な?」なのかは誰にもわからなかったが、少なくとも諍いはそれで止まった。


 みんな腹を空かせていたのだ。八幡不知が止めるのも聞かず、累ヶ淵や泉まで食べ始めている。というか累ヶ淵、菓子ばっかり食ってる……。まぁ幸せそうだからいいか。


「……仕方ない。何か盛られていても、俺は知らんからな。……だが、食べ終わったら、話がある」


「……」


 まぁ、そう来るわな。


 テーブルについて簡単な朝食を済ませた俺たちは、そのまま話を始めた。


「なあ、話ってのは、『悪魔ゲーム』についてだろ?」


 長引かせてもアレだ。世間話のように切り出してみる。


「……ああ」


 が、途端に空気が重くなる。


「……これは想像なのだが」


「いいからさっさと言いやがれ」


「……そうしよう。この『悪魔ゲーム』とやらは、人狼ゲームが元になっているのだろう? で、あれば、『占い師』や『霊媒師』などが居てもおかしくはない……そうは思わないか?」


「え? 『占い師』って?」


 鈴ヶ森がマイペースに言う。


 ……だが、それは……!


「気を付けて!」

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