第3話 台無しの足音
「そういう事か……」
犬鳴峠がどこか悔しそうに言う。確かに俺もすぐには思い至らなかったけど、八幡不知が言いたい事はわかった。
「え? なに? どういうこと?」
鈴ヶ森は左右に顔を向けて答えを乞う。とりあえず隣の金助はわかってない顔してるから見てもムダだぞ。
「えっとぉ、それだけでも、わかることっていくつかあると思うんですぅ」
「なんや? 何がわかるんや?」
「それはぁ、きっとヤワティーに聞いた方がいいとぉ、思うなあ」
「ヤ、ヤワティーて……」
「呼び名は何でも構わん。……ともかく説明しよう。まず、高校が違うという事は、我々をここに集めた者は、一人ではないという事だ。とても一人でそんな事はできまい」
全員の息を飲む声が聞こえた。
うん、そうなんだ。状況から見て、俺たちがここに集められたのは間違いない。
「私は睡魔に襲われて保健室で休んでいたはずだが、目覚めたらここだった。食事に睡眠薬でも混ぜられたのだと思うのだが、いずれにせよ運び出すには、物理的なものもあるが、学校から生徒を運び出す不審さをとっても、並みの苦労ではあるまい」
「言われてみればせやな。同じクラスとか同じ部活とかなら、ダマして集める事が出来るかもしれんが……」
「も……もしかしたら……私たちは眠らされたんじゃなく、意識を失ったんじゃないでしょうか……?」
おずおずと口を開いたのは累ヶ淵。
「え? それに何か違いがあるの?」
屈託なく言う鈴ヶ森。若干、何も考えてないんじゃないか……とも思ってしまうくらいマイペースだ。
「い、いえ? そんな大したことじゃなくて……ただ、もしそうなら、救急車に偽装すれば簡単に運び出せるかな……って」
「ふむ。その線はありそうだな。だが、だとしても、それなりに大がかりな準備がいる。組織的な犯行とみるべきだろう」
「そ、組織的な犯行……って!」
累ヶ淵は気絶しそうなくらい目を見開いて悲鳴めいた声を上げた。
「もう既にこの時点で拉致監禁罪だろう。今更、犯罪ではない可能性を考えるのは現実的ではあるまい。芸能人のようなドッキリを我々に仕掛ける意味もないだろう」
「じゃあ、何が目的なんだ? 思いついてるのか?」
聞くだけ聞いてみたが……。
「それにはまず、この部屋の天井を見てくれ」
……まぁ、それだよな。監視カメラらしきものが四隅に見える。それと、天井近くには電源が入っていないテレビモニターが見えた。
「……チッ、そんな冗談みてえなことがあんのかよ」
犬鳴峠じゃなくても、吐き捨てたくなる気持ちはわかる。
「……えっとぉ……たぶん、みぃんなうすうす感じてはいたと思うんですけど……そういうことですよねぇ……?」
「え? 何が?」
おお、マイペースすぎるだろ鈴ヶ森。
「……せんぱぁい……流石にそれは引きますよぉ……」
「あんな、オサネちゃん、こういう映画とか漫画見た事あらへんか? 見ず知らずの人間が閉じ込められて……その……」
「その?」
「殺し合いをさせられるってことだよ! 『デスゲームもの』くらい見た事あんだろ!」
犬鳴峠が大声を上げると、辺りは水を打ったように静まり返った。
状況は、どう見てもそれだった。
『ハーイ、注―――目!!』
痛いほどの沈黙を斬り裂いたのは、明らかにふざけた色を湛えたボイスチェンジャーの音声だった。
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