第2話 犯行
迎えまであと1時間か。教室の時計を見ながらぼんやりと思った。解散時間を母親に伝え間違ってしまい、時計の針は15時を指していた。
「午前で終わりとか聞いてないってー」
先生の話を聞いていなかった自分を恨む。
僕は車で10分先の滝山私立第三中学校に通う3年生。歩いて帰ることもできたが、太陽に照りつけられたグラウンドを見ると歩いて帰ろうなんて考えは浮かばなかった。だからこうして課題を開いたままにして時間が過ぎるのを待っている。
『なんか面白いの入ってないかな』
教室の後ろにあるクラスメイトのロッカーを片っ端から開けてみる。普段は絶対できないことをこうしてやってみると、背徳感に苛まれそうで不安だったが、始めてみるとそうでもなかった。
汚ねぇな。思わず声に出してしまった。乱雑に詰め込まれた教科書。ジャンプ。しわくちゃのプリント。誰のだよこれ。
〈躅井拓也〉
ああ納得。あいつらしいな。玄斗と湊と仲良いやつか。
女子のは開けずらいな。まあ、誰も見てないだろうし大丈夫か。僕は1番端のロッカーを開けてみた。
『ジャージ?』
そこには学校指定の半袖と短パンが入っていた。
今日は球技大会2日目で、全員汗だくになりながら体育館を走り回った。それなのにジャージを置いてくなんて。一体誰だ。
〈吉田 夏菜〉
『吉田さんの?』
吉田さんはバスケ部キャプテンの人気者。当然学校中の男子は彼女に好意を寄せているやつがほとんどだ。この学校は吉田さんじゃなければ春田さん。春田さんじゃなければ吉田さん。みたいな感じだ。
『ちょっと嗅ぐぐらい許されるかな』
ゆっくりと顔の近くまで持ち上げる。
幽かに酸っぱい香りと、柔軟剤の甘い匂いがふんわりと香ってきた。耐えられなくなった僕は布を顔に押し付け、何度も何度も深呼吸をする。首元や脇あたり、背中まで匂いを確かめる。ふと下を見ると、ズボンの一部が凸んでいるのに気づいた。当然の反応だ。慎重に制服のチャックを下ろし、破裂寸前のそれを自由にしようとムワッとした空間に右手を入れる。
「先輩?」
声の先にいたのは1年の春田沙織だった。
「何やってるんですか...?」
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